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59.
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「…あ、もう時間だ。俺行くな」
「おぅ、明日は仲良く部長に怒られようぜ」
「…覚悟しときます」
苦笑いを浮かべる薺は、じゃあな、と言って自分のトレイを持って席を立った。
トレイの上にあるゴミを片付けて店を出る直前、俺を見たから手をひらひらと振ってみせた。
薺も笑いながら手を振って店を去って行った。
薺の姿が完全に見えなくなったら、今まで笑っていたのが嘘のように口角が下がった。
1人になったら店の中の一つ一つの音が鮮明に聞き取れるようになる。
まだトレイの上に残っているポテトを食べた。
「…はぁー、信頼"したい"…か」
溜息と共に溢れた薺に言われた言葉。
アイツの前ではポジティブな発言をしたが、少なからず傷付いたのは否めない。
俺にとって薺は親友だけど、アイツはそうは思っていなかった。
別に、自分と同じ立場がいいなんて傲慢なことは言わないけど…。
「…ハッキリ言われるとメンタルヤられるな」
椅子に深く座り込んで項垂れた。
この5年、俺は友達の中で誰よりも一番薺を見てきたと思う。
アイツの過去を考えたら、人を信頼することは難しいと思う…けど、俺には心を開いていると思ってた。
結局、それは俺の思い違いだったわけで…。
いや、それだと語弊があるか…完全には開いていなかったってことだよな。
「けど、まぁ…」
薺に言ったことは嘘じゃねぇけど。傷付いたけど、それだけで亀裂が入るような関係を築いていった覚えはないんだから。
取り敢えず、薺との関係はこれからゆっくりと進んでいけばいいんだけど…。
「…絶対にあの人のこと好きだよな…」
ボソッと喋った言葉が丁度横を通った男子高校生に聞かれて、ギョッとこっちを見ているのが視界の隅に入ったが、気付いてないフリをした。
前までは紫波さんのことを避けていたと思っていたが、ここ最近は話し掛けられたら楽しそうに話していた。
そして、他の奴らと紫波さんが話していたら無表情でジッと見据えていた。
これだけ見たら、紫波さんが好き…最低でも気があると見て分かる。
けれど、それを言おうとしたら「好き」の言葉を拒絶された。何故だ?男を好きになったことを認めたくないのか?
いや、そう言う風には見受けられなかった…どちらかと言うと、言葉にしないで欲しい、と言うところか?
ただ、薺が言ったように人1人を知ることは出来ないから、薺の本心は分からないが…。
それに、俺の眼が正しければあの人も薺を"特別"に思ってると思う。
まぁ、"特別"の枠がどういうのかはこっちも分からないが。
俺的には、2人の想いが同じならば嬉しい…が、問題は薺が自分の気持ちを伝える気がないと言うこと。
「…前途多難だな」
まだ日が昇っている外を見ながら小さく呟いた。
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