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69.
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お互いに傘は手に持っているが差すことはない。俺はスーツだからクリーニング行きだな…と頭の片隅で思った。
「…ねぇ、本当に君にとってナナはただの後輩なのかい?」
雨で視界が狭くなるし目に水滴が入る。
でも、そんなことお構いなしで一番聞きたいことを聞く。
彼は整っていたヘアースタイルが雨に濡れたことにより、前髪で表情が上手く見えなくなっていた。
すると、その前髪を邪魔に思ったのか搔き上げるように後ろへと流した。
爽やかなイメージとはまた違った野生的なイメージ。
そして、水も滴るいい男とはまさに彼のように人を言うんだろうな…。
その姿に見惚れていたら「俺は…」と話し出したからハッと思い頭を切り替えた。
「俺にとってあの子の印象は、儚いんだ」
「…うん、分かるよ」
「自己評価が見て分かるほど歪んでいて、自分の中に誰も入れさせない…1人を恐れてる筈なのに、1人でいようとする姿を何度も見てきた」
彼は伏せ目がちに話をしたり、目を瞑って何かを思い出している仕草をする。
「そんなあの子と接するようになって、どうにかしてこの子の歪んだ評価を正してあげたい。そう思うようになった」
「…そっかぁ…ナナは本当の自分と変わらないんだね」
彼の話を聞いて何処かホッとした。
俺が知ってるナナと彼の言う"薺"は、どちらも彼自身であるんだな…。
どちらも本当じゃないけどどちらも嘘ではない。
素直に良かった…と思った。
「…俺がこの子の隣で支えていきたい…そう思った時にはもう、あの子に惹かれていた」
「じゃあ…」
「好きです…男とか関係なく薺君が好きです」
俺の目を真っ直ぐ見据えて言い放つ言葉。
俺が見るに彼はノンケだ。それなのにも関わらず、「男とか関係なく」と言う彼にドキッとしたのは許してほしい。
異性を好きになるのが"普通"な世の中で、同性を好きになるのは"異常"かもしれない。
それでも、自分の気持ちを受け入れられる彼は、とても強い人間だ。
「…それを聞いて安心した」
「えっ?」
「セフレの俺が言うのはおかしいけど、俺達はナナの幸せを願ってるんだ」
「…あの子を自分のモノにしたいと思ったことないんですか?」
「ないね、俺も、他の人達も。それと、一つだけ言い訳をするなら、セフレだけど最後まではしたことないよ」
「…急に生々しい話をしますね」
「あの子の為にもね…最後までどころか、指さえ入れたことないからね」
それを言うとビックリした顔をして笑ってしまった。
さて、話したいことは話したからナナに追い掛けて貰おう。
そう思い、「話はここまで。行ってあげてよ」と言うと、「…あの」と言い出す。
「色々失礼な言い方してすみませんでした」
「気にしてないよ」
「…必ず、俺があの子を幸せにしますから、見ていてください」
それだけ言うと俺に会釈して走り去った。
相変わらず雨は降り続いているし水気を含んだスーツは気持ち悪いけど、彼の後ろ姿を見たらやっと一息吐けた。
芯の強い彼なら、きっとナナを幸せにしてくれるだろう。
…彼らの幸せに、幸多からんことを。
***
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