アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
71.
-
容赦なく雨が傷心中の俺を叩きつけ、服が水分を大量に含んで気がどんどん重くなる。
…気持ち悪いと思っただろうな…。
俺達みたいな性的嗜好を持つ者にとったら、男同士が…と言うのが"普通"だけど、紫波さんがいる世界ではそれが"異常"なんだ。
好きな人が出来れば世界は輝いて見えるって言うけど、あれって少なくとも叶う恋をしてる人に言えることだと思う。
俺の場合は、ただ彼の姿を見れるだけで、話せるだけで十分な幸せを貰っていたが、現実は甘くないことを知っている。
「…淀んでる俺が幸せを想うことすら傲慢か…」
もう、頬に流れているのは涙なのか雨なのか分からない。
手で拭っても拭っても"水"を拭き取ることが出来ない。
自分の言葉に嘲笑いを見せながら顔を上に向ける。
目に直接入る雨が鬱陶しくて目を細めた。
…一層のこと、このまま誰にも何も告げずにどこか遠い所に行こうか…?
学校も辞めて知り合いとの連絡も一切絶って…夜の仕事でもすればいい。
結局は、欲張った俺が悪いんだから。もう、幸せなんて願わないから…。
「…誰か、"僕"を必要としてよ…っ」
何も取り柄のない"僕"だけど、人を不幸にしてしまう"僕"だけど…誰かに必要とされたい。
……誰かに、愛されたい。
矛盾した想いにどうしようもなく哀しく、やるせなくなった。その時…。
「っだったら俺が、君を必要とするよっ!」
雨の音に負けないぐらいの大きな声で、誰かがそう言った。
その人は俺が思った以上に近くにいて、走ってきたのか息が上がっていた。
…どうして、どうして貴方がここにいるの…?
辺りは薄暗いけど、彼がいる場所は丁度街灯の真下。そのお陰で彼の姿がしっかりと目に入るし俺を真っ直ぐ見つめる黒い瞳と視線が合わさった。
「な、んで…ここに…」
「分かんない…分かんないけど、薺君ならここにいるんじゃないかって直感で…」
そう言って紫波さんは、何度か深呼吸をして呼吸を整えると、一歩一歩俺へと歩み出す。
それに対して咄嗟に、"逃げろ"と脳が伝達するから弾かれたようにその場から逃げようとしたが、敢えなく腕を掴まれた。
「待って薺君!」
「離してくださいっ、もう俺に関わらないで!」
街灯の下で捕まって掴まれた腕を何度も振り解こうとするが、自分よりも大きな彼に敵うはずがなかった。
それでもどうにかして汚い俺に触れてほしくなくてブンブン腕を振っていたら、紫波さんが「落ち着いて!」と言いもう片方の手でそれを制した。
そこで少しだけ正気に戻った俺は、自分よりも10㎝以上高い彼の顔を見た。
その目には、周りのことなど目に入ってない…俺だけを映していた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
72 / 233