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自慢じゃないけど、俺は感情を隠すことが得意だ。笑顔を浮かべていれば大抵の人は騙されてくれる。
なのに、この人には初めて会った時からその笑みが嘘だとバレていた。
…どうして?俺と貴方じゃ全然違うんだよ…今いる環境も、過去も…。
だからこそ、ただ見ているだけの恋で良かったんだ。それなのに…。
「…関係ないって、放っておいてって言ってる割には今にも泣きそうだよ。いや、もう泣いてたかな?」
そう言って俺の両頬を包み込むように撫でながら、目元を親指で拭った。
多分、涙の跡が残っていたのだろう…雨で分からないと思ってたんだけどな。
それに、泣きそうって何?ちゃんと何とも思ってない風に装ってるだろ?
紫波さんは嘘を吐いてるんだ…俺が逃げ出さないように。
あれ?でも何でそんなことする必要があるんだ?俺と紫波さんはコーチと教え子なのに…。
「嘘だって思ってるでしょ?」
「っ…何のこと…」
「今の薺君は、誰が見ても"助けて欲しい"って表情になってる」
雨で重くなった前髪を表情を見るためにか横に流された。
その言葉は俺に警告を出すきっかけとなった。これ以上はダメだ…踏み込まないで、手を伸ばさないで…。
俺は、孤独と共に生きていくと決めてるんだ…なのに…っ。
「"助けて"なんて…思ってない…」
「いいや、"助けて"って心が叫んでるよ。そのSOSを押し殺したらダメだ」
「っ紫波さんに何が分かるんだよ!」
俺の前髪を弄っていた彼の手を叩き落とした。
SOS?そんなモノとっくの昔に諦めてるよ。SOSなんて誰も気付かない。"あの日"、助けて欲しかった人に俺の"叫び"は届かなかった。
「"助けて"なんて言葉、俺なんかが使うべき言葉じゃないんだよっ!」
「っ俺"なんか"なんて言うな!」
突然怒鳴られて反射的にビクッと身体が震えた。何で?何が悪かったんだ?
どうして怒鳴られるか分からない俺は、パチクリと何度も瞬きを繰り返す。
「君は出逢った時からそう!いつもいつも俺"なんか"と言って自分には価値がないかのような言い方をする!」
「だ、だって、本当のことだし…」
「それを聞く側の気持ちを考えたことあるか!?"好きな子"が苦しんでる姿を見て助けたいって思うのは当たり前だろ!」
……待って、今…何て言った……?
真剣な表情をしている紫波さんの顔を驚いたように見ていれば、自分が言った言葉に気付いたのか、ハッと表情を変えた。
片手を額に当てて宙を仰いだと思ったら、再び俺に顔を戻して優しく笑いながらもう一度言った。
「俺は薺君のことが好き。男とか女とか関係なく恋愛感情として君が好きだ」
雨の音も車の音も、全ての音が世界から消えた。
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