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咲夜と別れて家に帰ると、まだ時間が早いからか誰もいなかった。
兄さんは今年卒業だから修士論文と就活で毎日忙しくしている。だから最近は、時間が合わなくて会う時間が少ない。
柊君はそろそろやってくるサッカーの中体連の為、毎日練習で忙しくしている。
人はどんどん成長して行くもの。それは当たり前の筈なのに、周りは成長してる一方、僕は昔と何一つ変わっていない気がする。
自分の殻に籠って外の世界に壁を作って、自分が傷付かないようにしている。
「…昔のままじゃいられない…よね」
人の気配がしない家に僕の独り言が四散する。
はぁーと溜息を一つ吐き自分の部屋に入って行く。
キョウ君と付き合い出して今までの曖昧な考えじゃダメだと分かり始めた。
今までは高校卒業したら1人で生きて行くんだ…とただ、漠然とした考えしかなかった。
けれど、何の力も持っていない未成年が、いざ1人で物事をやって行けるかと考えたら、それは余りにも非現実なことだと思える。
それに、本当にこのままでいいのか…家族の名ばかりの関係のままでいいんだろうか?
けれど、それは僕だけが決めていいことじゃない。言ってしまえば、僕は"被害者"であり"加害者"、そして家族は"被害者"であるのだから。
僕よりも家族の意見を尊重するべきなんだ。
制服から私服に着替えてバイトまでの時間をゆっくり過ごすことに。
ベッドに横たわり学校を出る時から見ていなかったスマホを確認すると、1件のLINEが入っていた。
『今日、帰るの遅くなりそうだけど夕飯は家で食べる?』と兄さんからだった。
僕は『友達と食べて帰るから大丈夫です。帰りも遅くなります』と返信してスマホをベッドに置く。
自分も忙しいのにこうして僕のことを気に掛けてくれる兄さんには感謝しているけど…果たして素直に甘えていいのかよく分からない。
昔はどうしていたっけ…と考えた時、胸が締め付けられる感覚に陥る。
だって、あの時は何も考えなくても甘えていたから。
家族なんだから自然と甘えるのは当たり前、そこに理由はないんだ…そう思ってた。あの日までは。
「…結局、そう思ってたのは僕だけだったのかも…」
体勢を仰向けにして手の甲を目の上に被せて視界を遮る。
家族とか血の繋がりとか…結局はそんなモノ、僕達の間には無意味なモノだったんだ。
考えれば考えるほど沼に嵌ると思い、思考を浮上させる為、ベッドから起き上がりバイトに行く準備を始めた。
これは考え出したらキリがない…さっきも言ったが、これからの家族のカタチを決めるのは僕じゃない。僕以外の家族なんだから。
鞄を持ち家に鍵を掛けてeryngoに向かう。
…キョウ君、いつ来てくれるかな…?
誰にも見せたくない、僕の自慢の恋人。けれど、今は無性に会いたい。
呼吸がしずらい胸の痛みを治してくれるのは、キョウ君以外にできないから。
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