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117.
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和んでいた空間に似つかわしくない声色と言葉に、再び場が騒然とする。
所々から「え?ナナちゃんがウリをやってたってこと?」とどよめいた声に、数少ない人しか知らなかったことが伺える。
確かに、薺がやってたことは虚しいことしか残らない行為かもしれない。
けれど、そこには理由があった。寂しいと言う感情を肌を重ねることで紛れていたのだから。
まぁ、一つ訂正するならば、薺はまだ"清い"と言うことだ。
チラッと薺を見ると、顔面蒼白とはこのことかと言える表情をしていて、今にも消えてしまいそうな姿に胸が痛む。
…俺がこの子を捕まえないで、誰がこの子を捕まえると言うのか。
俺がこの愛しい子を守らないで、何が恋人と言えるのか。
人の隠したい部分を厭わずに話す卑劣な行為を、恋人である俺が許すと思っているのか?
男はシテやったと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「…薺、おいで」
周りの声に掻き消される程の声で薺を呼ぶ。
多分、今の俺の声が聞こえたのはここに集まっているスタッフだけだろう。
可哀想なほどの青白い顔と、無意識に発せられているであろう「ごめんなさい」を聞くと、腹が立って仕方がない。
薺にじゃないよ、相手の男にだよ。
最近は少しずつ俺に甘えて、自分を蔑ろにすることが減ったって言うのに…これでまた振り出しに戻ったら、コイツをどうするか分からない。
フラフラしている足取りでカウンターから出て来て、俺の隣で立ち止まるからグイッと腰を引き寄せて抱き締めた。
「…キョウ、君…」
「薺、大丈夫だから…自分のして来たことを恥だと思ったらダメだよ」
「でもっ、言われたことは当たってるよ…」
「いいや、違うね。だって薺は誰でも良かった訳じゃないでしょ?不特定多数って…俺の薺を淫乱みたいに言いやがって」
「っごめんなさい…"僕なんかの所為"でキョウ君まで悪く言われたら…っ」
「…薺、ちょっと待っててくれる?」
「えっ?」
「薺を傷付ける奴は誰であろうと許さない」
ギュッと抱き締めながら互いに聞こえるほどの声の大きさで会話を繰り返した。
けれど我慢ならなかった。薺に"僕なんか"と言わせた奴を…。
腕の力を緩めて薺を自分から離させると、薺を傷付けた男を視界に入れて睨む。男はビクッと身体を震わせた。
「…あのさ、お前にこの子の何が分かるってんだよ」
一歩一歩、ゆっくりと男への歩みを進める。
そこまで大きな声で喋ってはいないけど、俺が醸し出す黒い何かに客は一瞬にして黙った。
俺が男に近付く度に、心なしか男の震えが大きくなっている気がする。
けどさ、そんなのどうでもいいんだよね?
俺の薺の心に傷を付けた奴は…許さないだけだ。
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