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自分の家庭環境が恵まれていたとは思っているけど、今はそう思えない。
家族はバラバラになり、僕も兄も男と付き合い、僕は未だしも兄はそれについて母親に大反対されている。
一体どこから間違っていたんだと思うくらい、家族の形は崩れたんだ。
「理解…そうだな、俺がバイだと知っても『自分の人生なんだから好きにしなさい』って親は言ってくれた。」
「…羨ましいな、そう言ってくれる母親がいて」
「…薺は家族に自分の性癖は言ってるのか?」
コーヒーを口に含み"薺"と本名で呼ぶ。
多分、この話は"ナナ"としてではなくて"薺"としてだと思ったのだろう。
角を挟んで隣り合う座り方は、緊張せずに自分の話が出来て一番いい位置関係だと何かのテレビで見たことあるな…。
膝の上で拳を作り横にいるミキさんの顔を見ずに話を続けた。
「…話してません。特に母親には言えません」
「…その理由を聞いても?」
「…僕の兄も男と付き合ってるんです。その方は大学時代の友人で僕もどう言う人か知ってます。けれど、母親は2人の付き合いに大反対なんです」
「…それは、男同士だから?」
「はい、母親は同性愛に否定的な立場なので」
冷めてきたコーヒー…元言いカフェオレを一口飲んだ。
少し話しただけなのに、口の中が渇いていて内心ビックリした。
昨日の今日だからか、未だに母親が兄さんに言った言葉が僕の中で消化されない。
男同士の恋愛は馬鹿げてるいるとか未来がないとか…。
…僕に手を出した父親と一緒だとか、気持ち悪いとか…。
胸がズキズキと痛み無意識に胸元の服を握り締めた。
「…それが普通の考え方だ」
そしてミキさんの言葉にも胸が痛む。
日本の世の中って本当に生きにくい。
男女で恋愛をして結婚し、子どもを授かることが"普通"。
女性は常に男性の一歩後ろを歩むのが"普通"。
育児休暇は女性だけが取ることが"普通"。
昔からの仕来たりを重んじて、現代に合った考えを取り入れないことはおかしなことだ。
普通、普通…僕にとっては、今の状況が普通だと言うのにそれを否定された気持ちになった。
「俺の親は偶々理解のある人だけど、全員が全員、そう言う考えを持つことはない。寧ろ俺の親は少数派だ。
どんな親だって、息子が同性と付き合って受け入れるのは難しいだろうな」
淡々と、でも重みがあり正しい言葉に僕は反応が出来ない。
「でもさ、周りの人間に諭されて負けたら、それまでの関係だったんだと思う。そう考えたら薺のお兄さんは凄い。どんなに反対されてても別れを選ばないんだから」
その言葉に胸の苦しみが和らいだ気がする。
徐にミキさんを見れば、口角を上げて不敵に笑っていた。
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