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「…本当に、幸せそうなんです」
「ん?」
「…兄達は…僕から見ても愛し合っていて…一緒になるべき存在ってこう言う2人を言うんだって…」
「薺と紫波君も俺にとってはそう言う存在だと思ってるけど?」
「…今でも思うんです。本当に僕が幸せになっていいのか、って…」
意図せずに口から零れ落ちた本音は、心の奥底に眠っていた本心だった。
キョウ君が何度も何度も、一緒に幸せになろうと言い、それに対して僕は幸せになりたいと思うようになった。
けれど実際は、果たして本当にそれでいいのか…たくさんの人の人生を…父親の人生を壊した僕が幸せを願っていいのか…。
ずっとそれだけは、何があっても消えることがなかったのだ。
折角ミキさんの言葉に和んだ筈の心を、自分で堕としてしまった。
「…薺に何かあったかは分からないけど、幸せになる権利は誰にでもある」
「…そんなの綺麗事に過ぎない…」
「そう、綺麗事。俺だって薺より10年以上長く生きてるからな…世の中、理不尽だと思うこともあったよ」
クイっと残っていたコーヒーを飲み干して、ソーサーの上に音を奏でながら置く。
ミキさんは家族に恵まれているとは言ったけど、周りの人間全てに恵まれているわけではないだろう。
ゲイバーなんて世間からすれば万人に受ける職業ではないことは確かだ。
きっと、ミキさんも後ろ指さされることもあっただろう。
「でも俺はさ、例えどんな罪人でも、心を入れ替えれば幸せになっていいと思ってる」
「…罪人」
「そう、人の心程分からないモノはないけど、一度のチャンスぐらいあってもいいんじゃないかってね?」
そう話すミキさんは、僕を見つめながら優しく微笑んだ。
一度のチャンス…か…けれど、僕の場合は一度だけじゃないんだろうな。
自分が意図したことじゃないにしろ、防ぐことが出来なかったのだ。
何度、他人から悪魔だと言われたか…。
僕は罪を背負わなければいけないんだ。
「…なら、僕にはそんなチャンスありませんね。だって、僕は何度も同じことを繰り返して罪を犯してきたのだから」
「それは薺が自らしようと思ったことじゃないだろ?」
「それでも、罪は罪です」
ハッキリと言えば、複雑な表情を浮かべたミキさん。
言ってることは屁理屈なことだけど、僕は僕の全てを許してはいけない。
「…それに、母親が兄達を反対するのも、少なくとも僕の所為だから」
「…えっ?」
「僕の所為で男同士の恋愛が許せないと思うから…」
ずっと、思っていたことを初めて口にした。
あの日、もしあのまま続いていたら…自分の夫と息子はそう言う関係になっていたんだ。
そりゃ、同性恋愛なんて拒絶するようになるよ。
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