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その蓮さんの言葉に鼻の奥がツンとした。
たくさん傷付けたのに…迷惑かけて苦しい思いもさせて恨まれてもおかしくないのに…ずっとこの時を願っていてくれたの?
僕はずっと兄弟に嫌われてはないにしろ、罪悪感で一杯だった。
特に柊には悪いと思っていて、まだ小学生だった柊から父親を奪ってしまったのだから。
僕の所為で家族はバラバラになったのだから、それについては何か思うことがあるのだろうと思っていていたけど…。
「…っご、めんね…薺っ」
「な、んで兄ちゃんが謝るの…」
放心状態になりかけの僕にくぐもった掠れ声で兄ちゃんが謝る。
多分、泣き顔を見せたくないのだろう…顔は蓮さんの胸に預けたままだ。
「っ、あの日、薺を置いて出掛け、なければっ…薺を傷付けることはなかったっ」
「そんな…3人で買い物に出掛けただけじゃんっ。兄ちゃんの所為じゃないよ!」
「でもっ、3人で行かなくても良かったんだっ。俺が残って看病していればっ…!」
気持ちが昂ぶってか、隠していた顔を僕に見せた。
黒い瞳からは止め処なく涙が頬を伝っていて、痛々しいぐらい瞳が真っ赤に染まっている。
あの日、僕は熱を出して部屋で1人ベッドで寝ていた。
母親と兄ちゃんと柊が買い物に行って来ると僕に伝え、出掛けて行ったのだ。
そして、事が起きたのはその後で…偶々財布を忘れたことに気が付いた母親が戻って来て、事なきを終えた。
今でも鮮明に思い出せる。あの時、部屋に入って来た父親の目がいつもと違ったことも…。
感じた恐怖も…。
そして、「ごめん」と言われながら触られたことも…。
全部全部、心で、身体で覚えている。
「…兄ちゃんの所為じゃない。アレは、起こるべくして起こったことだから」
「…どう、いうこと?」
「…ごめん、今はまだ言いたくない」
真っ赤な目をする兄ちゃんから視線を逸らす。
言いたくないと言うよりも、言える勇気がないんだ。
それを話すことで、あの時の恐怖に呑まれそうだから。
目を伏せて視界に何も映らないようにすると、後頭部が引き寄せられて安心する温もりに包まれた。
無意識に彼の胸元の服を掴んで深呼吸をする。
「…大丈夫、無理に話さなくていい。言ってるでしょ?ゆっくりと、ナズのペースで進めばいいって」
「…んっ、ありがとう」
深呼吸をする度にキョウ君の香りが鼻腔いっぱいになり、ずっと嗅いでいたい衝動に駆られる。
キョウ君と身体を重ねたことで、前以上に甘えたくなるし一緒にいるなら触れたくなる。
…あぁ、キョウ君がいないと、生きていけないな…。
そんな今更なことで脳裏が一杯になったら、「…俺、ナズ兄の所為じゃないって思ってるから」と突然柊が言い出した。
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