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189.
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その愛に気付かせてくれたきっかけを作った彼を見上げる。
彼もまた、僕を優しく慈しみを込めて見下ろしていた。
そっと頬を伝う涙を親指で拭うと、目元に溜まっていたソレも拭い去る。
「…棗さん達が言うように、薺はよく泣きます。出逢った当初はなかなか表に感情を表さなかったけど…付き合ってからは徐々に年相応に感情を出すようになりました」
表情と僕に向ける視線は変わらないけど、語る先は兄ちゃん達だ。
キョウ君が言うことは分かる。
喜怒哀楽を出すことに躊躇いがなくなり、素直に物事を言えるようになったと思う。
でもね、これも全部、キョウ君がいてくれたから取り戻せたことでもあることを彼は気付いていない。
僕だけなら取り戻すどころか、僕を理解してくれる全ての人と向き合うことは出来なかった。
枯れることのない涙は、今まで堰き止めていたモノを全て流してくれる気がして…。
まぁ、キョウ君と出逢ってからは泣けるようになったけど。
「それに俺も…薺と出逢うまでは恋愛に本気になれないようなヤツでした。誰かと付き合ってもその人を好きになることはなかった…でも、薺は別です」
「…薺のことは…本気なんだね」
「はい…初めてなんです。はじめて誰かを欲しいと思って、手を差し伸べた…性別とか関係なく薺自身に惚れたんです。棗さんもそうじゃないですか?」
ここでやっと兄ちゃんを見たキョウ君の表情は、兄ちゃんの答えを知っているかのように穏やかだった。
スン、と鼻を啜り僕も兄ちゃんに向き直る。
…あぁ、そっか。そうなんだね…。
兄ちゃんの表情を見てキョウ君の言葉が確信になる。
人を好きになることは、性別なんて越えてしまえる…蓮さんと手を繋ぎ幸せそうに笑う兄ちゃんを見てほっこりとした。
「…そうだね。蓮に告白された時、嫌悪感とかは不思議と全くなかった。それまで女としか付き合ったことがなかったし、男に好意を抱いたこともなかった。でも、蓮だけは特別。桔梗君が言うように男とか女とか関係なく、蓮自身を好きになったよ」
笑いながらそう言ったと思ったら、右目から一筋、涙が伝った。
その涙は誰が見ても…幸せから来る涙だと分かる。
僕もついさっき、その涙を流したから。いや、最近の僕は哀しみの涙も流すけど、幸福からの涙の方が多い。
それはきっと、溢れんばかりの幸せをキョウ君が与えてくれるからに違いない。
「…棗さん、それに柊君。俺達はまだ出逢ったばかりで互いのことを全部知っている訳じゃないです」
「…キョウ、君?」
「…いや、全部を知るなんて傲慢で欲深いことだけど…薺のことは何があっても手放したくないんです」
兄弟2人に自分の想いを伝え出したキョウ君に、全員が耳をそばだてる。
そして、胡座をかいでいた体制から身なりを整えつつ正座に変わる。
「だから、お願いします。薺と一緒に生きさせてください。必ず…薺の身も心も守り抜きます」
お願いします…と最後に言ってから、手を床に付けて頭を下げた。
その姿は、彼の最上の愛を痛感した瞬間だった。
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