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レナードの言うアップルパイの店の少し前のところで車を降りた。
パーティーではなく、こういう普段のデートの時は大体そうである。少し手前で降りて、ゆっくり二人で歩く。そして、デート中は色んな場所へ歩いて、帰る時に迎えに来てもらう。屋敷が近ければ、二人で歩いて帰ったりもした。
悟は、どんな高級な店やホテルよりも、こっちのほうが楽しく、性に合っているような気がした。レナードも最初はそんなものでいいのかと戸惑っていたが、悟の笑顔を見ると次第にその気持ちも消えていったようだ。
店に到着して、悟の目の前にはいい香りが漂うアップルパイ。上に添えられている温かいカスタードクリームにビスケットのような生地を割れば、しっとりした林檎がたっぷり入っている。
「んっ……美味しい……!」
「そうか。それは良かった」
ご満悦の悟を、レナードは顎に手をかけて見つめていた。
どんな悟でも可愛いが、特に食事をする姿はいつも以上に愛らしい。見ているだけで、こちらも幸せな気分になってしまう。
「レニーは? 食べますか?」
「ん」
悟がレナードに問いかけると、レナードは口を開けて。
「……はい」
少し間を置いて、悟はその中へ一口サイズのアップルパイを放り込んだ。
「……甘いな」
そして、口端についたカスタードクリームをペロリと舐める仕草はどこかいやらしい。
なんだか、だんだんと羞恥心が湧き上がってきた。なんてことをやらせるんだという気持ちと、なんでそんなことをしてしまったんだろうという気持ちがせめぎ合っている。
なぜなら、どことなく感じる視線。静かに様子を伺うと、やはりそれはレナードと悟へ向けられているというのは確実だ。
「どうしよう……周りが見てます」
「見せつければいい」
「だからといって、さっきもあんな道中で……んっ!」
悟の口が止まったのは、レナードが親指で悟の口端を拭ったからだ。
レナードと同じように、悟の口端にはクリームがついていて。レナードはそれを拭った後、自分の口まで持っていきペロと舐める。しかも、なんの違和感もなく自然と行われた。
「……唇にはしていない」
「なにを言いますか! 俺が避けてなかったら、唇にしてたでしょう!?」
がたん、と椅子が揺れる。
実はというと、この店に着く前に少しだけ事件が起こった。道中歩くレナードの姿はやはり目立って。レナードとすれ違うたびに周りの視線は集まっていく。
αは雰囲気というか、纏っているオーラが全然違う。レナードは堂々と構えているからいいが、こういうのをコンプレックスに持つαもいるんだろうな、と悟は思っていた。
すると、レナードに肩を抱かれて。
──レニー?
──向かい側にいるβ、お前を見てるから。
嫌そうに眉を寄せてレナードが言う。悟はプッと噴き出した。
──まさか。ここで目立っているのはレニー、貴方ですよ?
──だが、悪い虫がついてもらっては困るからな。
ここで悟にまさかの展開が起こる。レナードが顔を近づけてきたのだ。
──え、なに? なにっ!? ちょ……!
悟はぎょっとした。なにを、こんな街中で!
なんとかレナードを避けて口づけは免れたが、見る人によっては口づけに捉えられたかもしれない。もちろん、注目を浴びていたので周りがざわついて、悟の心は店に入るまで気が気でなかった。
そんな事件が起こっていたのだ。
「はいはい、怒らない怒らない」
「……別に怒ってません。ただ呆れているんです」
「そうだな」
「……もう。ずるい」
悟の扱いに慣れてきたレナードは、簡単に悟の刺をすり抜けていく。
それが悟だけ余裕ないように見えて嫌だった。悟は悔しそうに下唇を軽く噛む。
すると、それを見ていたレナードが、真剣な顔をして口を開いて。
「なんだ、その顔は。家だったら間違いなくめちゃくちゃになるまでキスしてる」
「真顔で言われると笑えないのでやめてください」
そのあと、図書館で本を借りて、休憩がてら公園のベンチで読書することになった。相変わらず、レナードは色んなジャンルの本を借りていて、今は数式ばかり羅列された、またわけのわからない本を読んでいた。
物好きだなあ、と思いつつ、悟も本を開こうとすると、とある光景に目がとまった。
赤ちゃんがよちよち歩きで、おいでーと手を叩きながら言っている両親に向っている光景だ。なんとかたどり着いた赤ちゃんは母親に抱かれ、父親に頭を撫でられていて満面の笑みを見せる。
「可愛い……」
幸せそうな家族だなあ。思わず悟は口にしていた。
「ん?」
「ほら、赤ちゃん」
「ああ。そうだな……可愛いな」
こてん、と頭をレナードの肩に預けると、レナードは包むように抱き締めてくれる。ぽんぽん、とリズム良く叩いてくれる手が心地よくて、少し眠気が誘ってきた。
「なんか……本当に不思議。あんなに小さいのに、いつかは俺たちと同じ大人になっていって……そこからまた新しい命が生まれて」
「なんだ唐突に」
「そう思うことが多くなったんです」
ぽつんと呟くと、レナードがふっと笑った。
「まあ、そうだよな……俺はようやく成長してるんだなと実感してきたが、サトルはこんなに身近で感じているんだからな」
そして、本をベンチへ置いたあと、その空いた手が悟の腹を撫でる。
まだゆったりとしたものを着れば目立たないが、少しずつ大きくなってきているお腹。そこには、レナードとの新しい命が宿っている。
悟は静かに微笑んで、レナードの手に自らの手を重ねた。
「早く会いたいな……」
「あっという間さ」
「ふふ。良いパパになってくださいね?」
「あー、それはまだあまり実感が湧かないけどな。可愛い天使が生まれてくるんだ。当たり前だろう?」
レナードは、どんな風な父親になるのだろうか。
晴臣の時はたくさん想像出来たのに、レナードとなると、なかなか想像が出来なくて。悟はくすり、と笑う。
でも、それはそれで一つの楽しみなのかもしれない。
どんな子が生まれてくるのだろうか。どんな子に育つのだろうか。
これから家族が増えて、もっともっと楽しいことがたくさん増えていく。それをレナードと一緒に目で見て、耳で聞いて感じたい。
悟は、レナードに身を寄せながら、今ある幸せを噛み締めていた。
END
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