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面影 Ⅲ〜side佑吾〜
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創とリビングに行くと
隣で小さく「…わぁ」という声が聞こえてきて
創の視線を辿った
その先には グランドピアノが置いてあって
未だに艶を保っているその姿に 少しだけ切なくなった
昔は学校から帰ると いつも母さんが弾いていて
ドアを開けると 満面の笑みで
『佑吾 お帰り』って 出迎えてくれたっけ…
「ピアノ…母さんの趣味だったんだ」
「そうなんだ…」
今は 誰も弾かなくなってしまったピアノ
俺も蓮も 母さんが亡くなってしまった後
ピアノは 辞めてしまっていた
「ひょっとして 創君 ピアノ弾けるのかな⁇」
「…え…あ」
父さんの問い掛けに創は少し口籠っていたが小さく頷いた
「……はい…少しだけ…」
「そうなの⁇ 何か弾いてもらったり出来る⁇」
純粋に創のピアノを聞きたかった俺が そう提案すると
創は困った様に眉を下げた
「え…で でも…」
「是非 聞かせてくれないかな
佑吾も蓮も ピアノは続かなくてね…
今でも調律はしてあるんだが
音色は ずっと聞けていないんだ」
創は父さんの言葉に 困惑の色を浮かべていたが
俺が笑顔で頷くと ピアノの前の椅子に腰掛けた
白くて細い指は 鍵盤に映えて とても美しい
足をペダルに乗せたところで 創はまた俺を振り返った
少しだけ頬に赤みを帯びたその表情は
好きだと改めて告白されている様な気分になって こそばゆい
思わずヘラッと笑って 首を傾げると
創は俺とは対照的に
ふんわりと 花でも咲きそうな 柔らかい表情をしていて
あまりの可憐さに 口を半分開けて見惚れてしまっていた
創は改めて前に向き直ると 静かにリズムを刻み出した
その選曲に 俺だけではなく 父さんや蓮も驚いたと思う
創が弾いたのは エドワード・エルガー作曲の 愛の挨拶
母さんが 一番好きだと言って いつも弾いていた曲だった
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