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恩義 Ⅳ
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連れて来て頂いた場所は 完全個室の店だった
飲み物を注文すると
社長は自分の方に ゆっくりと向き直った
「…君 Ωだね」
当然の質問に グッと拳を握った
もう言い逃れをするつもりは無かった
「…はい…嘘をついて…申し訳ございませんでした」
声が震えてしまい 上手く喋れたていたか自信がない
人生終わった
そう思った矢先
社長からとんでもない言葉が 飛び出したのだった
「気にする事はない 私なんて αだと嘘をついている」
俯いていた顔を上げ 社長の言葉に 目を見開いた
先程から もしかしてと思ってはいたが
それでも自分の考えに 自信は全く持てていなかった
だって 社長は あまりにも完璧な方だったから
「この事は 亡くなった両親と妻しか知らないんだ
αとして育てられたは良いが
当然 結婚の際に問題が生じてね
α女性は気の強い方が多くて
中々自分の話をする勇気が出なかった
妻は 身体があまり丈夫ではなかったが
気立ての良い人でね
自分もαだと名乗らせて欲しいと頼んだ時
快く了承してくれた
長男は私が産んだが 次男は妻が産んでくれた
感謝しても仕切れないよ」
「…そう…なんですか…」
αとして生きるなんて 並大抵の努力では出来ない
それをやってのけている社長を 改めて尊敬した
しかし どうしてこんな大切な話を
自分なんかにしてくれるのか
それだけが分からず 失礼な反応をしてしまった気がする
そんな自分の考えを察したのか
社長は目を細めると 少し哀しげに笑った
「… 一人で この秘密を抱えているのが…中々辛くてね
君のおかげで 少し楽になったよ…」
「…社長」
疑問が解ければ その心中を考えるだけで苦しくなった
家族にも秘密というのは どれ程辛い事だろう
「Ω性はどうにも生きにくい世の中だ
君も大変だっただろう
でも 性別がどうであろうと 優秀な者は優秀だ
君はどこに出しても恥ずかしくない 自慢の社員だよ」
「…そ…んな…」
大袈裟だと言われるかもしれないけれど
初めて人に認めてもらえた事が 死ぬ程嬉しくて
堪えきれずに 涙が止め処なく溢れた
人前で泣いたのは これが初めてだった
「これからも よろしく頼むよ」
「…しゃ…ちょ…」
泣きすぎると息がしにくい事を この日初めて知った
つい数分前まで 諦めしかなかったのに
こんな自分でも必要としてくれるなんて
感謝しても仕切れない
それでも この気持ちは しっかり伝えないとと思い
震える唇を 何とか動かした
「…あり…がと…ござい…ます…
…こ…このご恩は… い … 一生忘れません…」
自分の言葉に 社長はそれは綺麗に笑っていて
この方の為に 自分が出来る事はどんな事でもしようと
そう心に強く誓った瞬間だった
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