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中学の俺とあなた 影山side
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頬を嫌な汗が伝う。
思わず目を逸らした俺を、末岡さんは絶対に恐ろしい顔で睨んでいることだろう。
だから尚更彼女の目を見れないでいる。
「こんなとこで何してんの……?」
女には似合わないどすの利いた低い声。
なかなか手紙を渡さない俺に、苛立ちを隠せなかったと言うところか。
「こんなとこでボケッとしてるけどさ、手紙は渡してくれたの?」
「……いや、まだ……」
「チッ……もういい。手紙返して……」
末岡さんの舌打ちに、怯んだ自分が情けない。
でも……いくら恋に弱気になってしまっても、少しでも希望があるというのなら、悪あがきぐらいさせてくれてもいいじゃないか。
破ってしまった手紙のことは、言えないまま。
どんな理由、状況でも
誰のことも、あの輝く美しい瞳に映してほしくないんだ。
酷い奴だと……ズルい奴だと罵られてしまうかもしれない。
それでも、この小さな希望にしがみついていたいんだ。
「もう少し待ってくれ」
「もう少しって後どれぐらいよ? 早く渡してよ」
「ワリィ。今の俺にはこれしか言えねぇ」
「な、何それ? 意味分かんない……」
「ワリィ……」
目を逸らしたまま謝る俺に末岡さんは長いため息を吐いて、校門をくぐっていく。
「早く渡しといてよね……」
曇った声でそう呟いてから立ち去っていく末岡さんの背中を、複雑な気持ちで見つめる。
及川さんにこの手紙を渡す日なんて、果たして来るのだろうか?
それでも、名前を呼んでくれた及川さんに、ちゃんと聞きたい。
あなたにとって俺は特別なんですか?
って……答え次第で、手紙を渡すことになるかもしれない……
それでも及川さん……あなたを待っていることをどうか許して欲しい。
希望があるなら……
嫌な顔しないで、また笑顔を見せて
俺の名前を呼んでください……
拳を握り、また校舎の方へ目線を向けたその時、待ち焦がれていた相手
及川さんの姿が視界に映った。
途端に、胸がバクバクと落ち着きがなくなってきた。
そんな苦しさを押し込めて、彼のもとへと駆け寄る。
「及川さん! 一緒に帰ろうと思って待ってました!」
またあの笑顔を見せてくれる。
そう期待していたが、その希望は早くも打ち砕かれた。
顔を歪めて、でも、いつもの機嫌の悪そうな嫌な顔ではなく、なんだか悲しそうな表情をしているように見えた。
どうしてそんな顔するんだよ……?
「……一緒に帰っても良いですか?」
不安な気持ちを隠せないまま恐る恐る彼を誘うが、そんな俺を無視して及川さんは早足で立ち去っていく。
でもだからって、ここで諦めることなんて出来るわけない。
俺は急いで彼の背中を追いかけた。
「付いて来るなよ……」
振り出しに戻された。
そう自覚してしまうほどの、怖く重たく響いた声。
それでも諦めたくなくて、必死に付いていく。
「俺、及川さんに冷たくされるの慣れてますから、気にせず歩いてください。
俺、及川さんとどうしても帰りたいんで……
勝手に付いていきます」
どうか傍にいること、許してください
俺に希望をください
名前呼ばれて嬉しかったんです
特別なんだって、自惚れてごめんなさい。
それでも、また名前呼んで欲しいなんて、我が儘に願ってしまう。
冷たくされたからって
こんな気持ち、期待して求める気持ちを……捨てることなんて出来ない
「あ、あの俺、スゲービックリしたけど及川さんに飛雄って呼ばれた時、なんか胸がグアーってなって!
何て言ったらいいか分かんねーけど、そのえっと、嬉しかったです!」
今も胸の高鳴りを止めることなんて、出来るわけなくて……
本当に、死ぬほど嬉しかったから。
俺の言葉にどう思ったのか、歩を止めた及川さんは何も言わず俯いていた。
沈黙が怖い……いつもみたいに意地悪でもいい。
何でも良いから、俺にあなたの言葉をください。
そんな想いを聞いてほしくて、そっと彼の服の裾を軽く引っ張った。
「今日は機嫌良いと思ってたのに、やっぱり悪いんすね。
部活終わった時は機嫌良かったのに……女子となんかあったんすか?」
「何かあった? そんなことお前に言えるわけないだろ!!」
願ったあなたの言葉。
でもそれは、強く突き刺さるような、悲しく揺れた声だった。
「? 及川さ、ん?」
「…あ……」
振り返った彼は、やっぱり辛そうな顔をしていて。
どうして、そんな苦しそうな顔するんですか?
それは、やっぱり……俺のこと嫌いだからですか?
服を掴む手がだんだん震えてくる。
そんな俺の手を払い除けて、及川さんは走り出した。
「あっ! 及川さん!!」
待って! 待ってください!!
必死に彼を追い掛けるけど、どんどん遠ざかっていく恋しい背中。
彼が向かっていく前方に、一人の女子が歩いていた。
及川さんが女子に声を掛け、振り返ったその顔は……
さっきまで会話していた人物、末岡さんだった……
「ね、ねぇ君! 俺と一緒に帰らない?」
「え? あっ! 及川先輩!!」
誘われた末岡さんは、顔を真っ赤にして、口を手で覆っている。
俺が及川さんと帰りたかったのに……
末岡さんの手を握って歩き出す及川さん。
「手、繋ぎたいな。良いよね?」
「は、はい……」
どうして末岡さんと手を繋いでるんだ……?
どうして俺が誘ったのに、末岡さんと帰るんだ?
どうしてどうしてと言っても、何も変わらない。
あなたは俺じゃなく、末岡さんを選んだ。
手を繋いで歩く二人の背中を、見送ることしか出来ないのか俺は……
及川さんっっ!!
心の中で彼の名を、苦しくなるほど、胸が張り裂けそうな思いで必死に呼んだ。
こっちを見て! 俺のこと見てください!!
この叫びが届いたのか、及川さんがゆっくりと振り向いた。
及川さん……!
振り向いたその顔は、
やっぱり悲しそうな、今にも泣き出しそうな顔に見えた……
どうして……そんな顔するんですか?
俺は及川さんのなんでもない存在。
ただの後輩
やっぱり末岡さん……
……女、女が良いってことか……
俺はただの後輩で、しかも男……
どんなに想っても届かない
届いてはいけないこの想い……
だから女の末岡さんを選んだんですよね?
なのに、何故……あなたはそんな顔してるんですか?
そんな顔、見たくなかった。
胸が苦しくなる。
あの時……
“飛雄”
そう呼んで、あなたは優しく嬉しそうに笑った……
その笑顔を
もう一度見せてと、願ってしまうのは
俺の我が儘
それでも俺は……
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