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楽しい奈落へご招待
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何度も頭を下げる。下げてどうにかなることなら、いくらだって下げる。
俺が悪いのではない。うちの会社のキャリーケースのCMに出ていたモデルがひき逃げを起こし、大いに困惑しているところなのだ。
機能性を重視した上でデザインを洗練させた、かなりの力の入ったラインだ。イメージは悪くなったが、機能性もデザインも損なわれていない。頭を下げて売り出しに協力してくれるなら、いくらだって下げる。炎上だって広告になると信じて。
俺は店舗の担当者を行脚して、なんとかいい位置に置いて貰えるよう交渉し、それなりに効果も出していた。営業成績は同期と比べればいちばんいいのだ。
が、俺のメンタル面は残念ながらボロボロである。ぺこぺこして、苦情も言われ、製造チームからの突き上げというか過剰在庫になる危険性も警戒し、無性に苛立ちがおさまらない。
入社3年目にしては社内でずいぶんな優遇を貰えたが、給料より負荷の方がしんどい。責任とはこのようなものか。沸き立つ苛立ちをグッとこらえて、それをぶつけられる弱者を求める俺は、弱者に依存しているのかもしれない。食物連鎖のピラミッドは、か弱い生き物なしには成り立たない。
ささくれだつ心に缶ビールを浴びせて、空き缶を握り潰した。秋の夜風が窓から入り、酔えない身体を冷えさせる。ベッドに倒れ込むが、疲れた心身とは裏腹に頭は無駄に冴え、うだうだと無為に時間ばかりが流れていく。
不意に、テーブルの上の携帯がブリブリと醜く鳴りながら震える。
登録されていないアドレスからだ。
鳩サブレみたいな文字列に、あの日の天使を思い出す。
***
管理人さんにおねがいしてアドレスをとうろくしてもらいました
はとがいです
おぼえてますか
ありがとうございました
また会えたらうれしいです
「き、きたあああ……!」
俺は浮き足立つ気持ちになったが、しかしこの空気、管理人とやらにこのメール検閲されていくのか?
どうやって……この溢れる下心を抑えれば……?
っていうか平仮名ばっかだな。難しい漢字使ったらあの子、読めないのかな? やべえ、新しい感覚。外人口説いてるみたい。
とにかく無駄に正座をして、アドレスに返信をした。
***
あのときの子ですか?
おぼえてますよ。お友だちになりたいと言ってくれて、うれしかったです。
病院には行けましたか? 体調は大丈夫ですか? なにせ気絶していたのですから、心配です。
もしも大丈夫なら、またお会いしたいです。俺は×日と×日がオフです。
あと、これは会社のアドレスなので、俺個人のアドレスを教えますね。
しばらくののち、教えた方のアドレスに返信が来る。
***
けいたいの使い方はむずかしいです
さっきのアドレスのけし方と
このアドレスのとうろくをおしえてもらいました
病院には行けました
体調にはうきしずみがあってすこしつらいです
でもしゅうとさんに会いたい
病院とお店とおうち以外ではじめておともだちができてうれしいんです
ぼくは×日おやすみです
管理人さんにお出かけ用のおこづかいのおねがいをしました
たのしみです
……この子、自分で金銭の管理をさせてもらえないのか。高いとか安いとか判別つかないのかな。俺みたいな口先でゴリ押す奴に押し売りでもされたらイチコロだろうしな。
大変、だな。
ただ、会う気はすごくあるみたいだ。かわいい。かわいい。ですます口調なのに会いたいだけには付け忘れてるあたり、なにか気がはやってるみたいでかわいい。鼻の下が伸びてしまう。
***
俺もはとちゃんとお話しできるのを、楽しみにしてますよ。
はとちゃんとお話しした、××駅の上りホームに×時に待ってます。
一緒に新宿でカフェにでも行きましょう。
約束の20分前、はとちゃんはキョロキョロとして俺の前を通り過ぎた。
前と同じベージュのカーディガンとバッグ、今日は濃い茶色のスカートを合わせて、足首にはからし色の靴下。靴紐の無い平たいスニーカーを履いている。少しおめかししたつもりなのか、前よりほおの紅がだいだい色でかわいい。
首に下げた手帳は変わらない。迷子になった時のために、首輪の裏に住所を書いておく犬の飼い主の話を、なんとなく思い出す。
前はスーツだったが、今日は黒のタートルネックに茶色のコートで、まあ外さない格好をしたし、眼鏡も仕事用の四角いフォルムのじゃなく、楕円の柔らかい形のものにした。
完全に女の子に会うつもりのテンションだ。そんじょそこらの女の子よりよほどいい、ご機嫌取りもいらない、打算とか今後とか考えない、ただ俺ははとちゃんをブチ犯すに至りたい。
まあ、顔を覚えられていないのがわかったのは、少し淋しい。
「はとちゃん、早かったね。……あれ、スーツも眼鏡も違うから、分からないかな? 柊人だよ。狭川柊人。また会えて嬉しいな」
「…………! しゅうとさん……しゅうとさん、会いたかった、です」
両手で俺の右手をそっと掴んで、ほんとうにうれしそうにほお肉を丸くする。見れば見るほど可愛いし、幼い。
「じゃあ、新宿に行こうか。はとちゃんは、新宿で遊んだりする?」
ううん、と首を横に振る。
「病院か、お店か、おうちしか行かないの。こわいから」
「お店?」
「パンやさんで、はたらいています。お店ののったちらしを、もってきました。見てください」
これは、区の広報紙だろうか。バンダナを巻いてエプロンを付け、パン屋のレジに立っているはとちゃんが、小さく写真に載っている。
店は精神障害者向けの福祉施設、とある。
……ああ、そうか、そうだよな、この子を雇える店はそういう……作業所? しかない、よな。
「ぼく、女の人がにがてだから、レジできないけど、しゃしんをとってもらいました」
「ああ、そうだったね。じゃあ、女の人に触れないように、一緒にいるときは守ってあげるね。痴漢にも会わないようになるし」
自分で言いながら、ちょっとおかしい。
新宿行きの電車に乗り込んで、空いていた椅子に座った。はとちゃんが角、隣に俺。
「えへへ、しゅうとさんがとなりにいると、電車でこわがったり、きんちょうしたりしなくてすみます。ずっとしゅうとさんのとなりにいられたらいいのに」
と、俺を見て微笑む。打算とか無いだろうに、小悪魔なことを言う。そっと手を握ると、恋人みたいに絡めて、子供の握力でにこにこにぎにぎ握り返してくる。
はたから見れば、俺とはとちゃんは恋人同士に見えるに違いない。
「しゅうとさん、どんなお仕ごとしてるの? ぼくも分かるお仕ごと?」
「バッグを作って売る会社でね、スーツケースって分かる? それを売る仕事をしてるんだ。あ、ほら、あそこにいるスーツの人。あの人の引いてるスーツケースは、うちの会社で作ってるやつだよ」
指差したスーツケースは、数年前にうちから出したモデルで、人気のあった黒だ。例のCMモデルが炎上した商品の、旧型にあたる。
「わあ……すごい。すごいです。すごい」
語彙が無いな。いや、本当はもっと色んな事を考えてたり、言いたかったりするのかもしれないが、はとちゃんには難しいのだろう。俺の言っていることも、何割分かるんだ? 的はずれな返答はしないから、分かっているんだと思いたい。
はやく抱きしめてキスがしたいな、ときらきらした目を見て思う。
「ぼくはパンしか作れないけど、しゅうとさんはあれを作れるんだあ……むずかしそう……」
「んー、俺は作るんじゃなくて、売る人かな。パンをこねる人と、レジに立つ人は違うだろ? 俺は、商品を色んなお店に持って行ったり、紹介をしたりするんだ。俺はパンを作れないから、はとちゃんもすごいと思うよ」
「そうか……作るのと売るのはちがう……そうか……」
癖になる言語感だ。親になったらこういうことに幸せを感じるのかな、と思う。
思わず頭を撫でると、なにかさみしそうに笑ってぽつりと呟いた。
「しゅうとさんのお手手、お父さんみたいにおっきい……」
お父さんはもうこの世にいないのだったか。この子を残して逝くなんて、さぞ無念で心配だったに違いない。
お父さん、残念ですがこの子は俺の手で台無しにします。こんなに支配欲がかき立てられるいい子を育ててくれてありがとう。
駅に着いて、手をつないで歩いた。ごく自然な感じがして、胸が温かくなる。
新宿という街が物珍しいのか、上を向いてキョロキョロしている。隣を女性が通り過ぎるたび、俺の腕に身体を寄せて、絡めてくる。
「どうして女の子が苦手なの?」
「……にがてなのは、女の子の方です。ぼくはちかよったらだめなんです。ぼくは、き、きもちわるい、でしょう」
自分じゃなくて向こうが苦手がっている、って解釈なのか? 面白い解釈だな。よほどひどいいじめでも受けたのだろうか。その割に女の子の格好だし、いびつだ。
「気持ち悪くないよ。可愛い。可愛いよ」
「……ほんと? ぼく、ふつうに見える………?」
「見える見える。はとちゃんみたいな可愛い子とお友達になれて、手をつないで隣を歩けて、俺は誇らしいな」
花がほころんだみたいに、顔をゆるませてはとちゃんは喜んだ。つないだ手をつかむ力が強くなって、ああこの子簡単に信用してしまうんだな、と悪い自分が笑う。
気持ちに嘘は何もないが、ある意味性質が悪い。好きだからこそ、めちゃくちゃにしてやりたい。この子は目を塞がれたまま俺に誘導されて、これから奈落に堕ちるんだ。
「ホットカフェモカ、トールで。シロップはショートの量まで減らして、あとココアパウダーを乗せて。はとちゃんは?」
「な、なにがなんだかわかんないです」
「スタバの注文は呪文なんて言われるし、ちょっと難しいかな? じゃあ同じのをもうひと……いや、はとちゃんは甘いのと苦いのどっちが好き?」
「あまいの……」
「じゃあシロップの量を増やして、もう1つ」
「会計は×円になります」
はとちゃんはかえるの柄の小銭入れを持って不安そうにしている。
「あ、俺がぜんぶ払うからいいよ。はとちゃん」
「ほんとにいいの……?」
小首を傾げて、うるうると見上げられるそれが十分に対価に感じる。
「いいよ。たくさんお話しよ」
向き合って椅子に座ったはとちゃんは、店の照明で身体中だいだい色に輝いて見える。
「これは……なに……?」
「コーヒーに甘いシロップとチョコレートソースを溶かした温かい飲み物に、ホイップクリームを乗せてココアがまぶしてあるよ。お菓子みたいな飲み物だよ」
俺はスプーンでクリームを半分ほど溶かして混ぜ、口にする。それを真似して、はとちゃんはスプーンでクリームをかき回す。スプーンをぺろりと舐める。
「……!? これは……ごちそう……!」
暗い小さな水面をふうふうと冷まして、口付ける。おおお……とか、ふへえ……みたいな感嘆をする。
「こういうの、あまり飲まないの?」
「たかいから、のめないです」
「ああ、お小遣いじゃしんどいの? 毎月何円くらいで生活してんの?」
「毎月15000円あって、けいたいのお金はらって、残りを30日でつかうの。1日500円ちょっと……? けいかくは、管理人さんがしてくれるんです。ぼくはちょきんして、リサイクルショップで、使いかけの安いけしょう品とか、おようふくをかいます」
「ごはんはどうしてるの? 家賃は?」
「朝と夜はおうちでみんなと食べて、お店ではたらいてるときはお昼も食べられます」
「みんな?」
「おうちは、ルームシェアっていうものみたいです。病院でいっしょだったひとがおおいです。ぼくは、女の子がいないかいにすませてもらっています。やちんは……えっと、よくわかりません……」
つまり、第二の病院ってことか?
管理人が似たような病気であてのない奴らを一ヶ所に住まわせて、飯食わせて、働かせたり社会に慣れさせたりしてるってか?
下衆い商売だな。それって閉じ込めて飼ってるようなもんじゃん。本当に、管理してる。
はとちゃんはいつもの調子で、ホワホワと思い出したように続ける。
「あっ、でも、生活ほごひからはらっているらしいです」
「せっ……」
生活保護。あの噂のアレか。まあパン屋で働いた金だけじゃ暮らせないよな。お母さん入院して、お父さん死んで、親戚も病気の子を引き取るのはしんどいだろうしな。もはや国に集るしか生きていけないのか。かわいそうに。
それじゃ、気軽にスタバなんてこと、うかつに出来ないよな。
はとちゃんには本当にごちそうなんだ。1日のお金の大半がこの一杯で消えてしまう。
「……はとちゃんも、その、精神病院、に入院してたの? ほら、鉄格子があって、窓が開かない、みたいな」
「してました。まどはあかないけど、さくはないです。かぎもだいたいあくところにいました。あっ、でも……」
「……なに?」
はとちゃんは、なにか困って、迷っているように言いあぐねている。はとちゃんにも言いにくいことがあるのか。
「……あう、いや、なんでも、ないです」
少しうつむいて、大事に大事にカフェモカを飲む姿は、喋らなければ常人だし、女の子だし、目が癒される。
「……はとちゃんには、好きな人いないの」
「しゅうとさん、好きです。あと管理人のえらいひとのおおつぼさんと、お店のえらいひとのたばねさん。ぼくなんかに、みんな、やさしくしてくれる」
屈託のない、しかし自信のない返事。
胸が締め付けられるのは何故なんだろう。
母性とも庇護欲求とも言えるのではないだろうか、巣の中で殻の付いたままぴよぴよと鳴く、小鳥を見る親鳥のような気持ち。俺にそんなものがあったなんて。
殺すのは容易いが惜しい。羽を捥いで、苦しみながら餌を欲しがる様を眺めて、餌を与えて懐かせてやって、手のひらの上で飛べずによちよち歩かせて。唾液が、口の中でじんわりと広がる。
弱くて愛らしい護るべきものを言いなりにしてやるのは、最高だ。
眼鏡を中指で押し上げて、獲物をじっと見つめる。
「……その俺への好きは、どういう好きかな。恋人になりたい好き? お友だちの好き?」
「……こいびとの好きは、いけない好きだから、お友だちです」
「なんでいけないの? 男同士だから?」
「だめなの……ぼく、わるい子だから、こいはだめなの」
照れたように、首を横に振る。
「誰が君を悪い子なんて言ったの? まあ、頭はちょっとだけそうかもしれないけど、恋をしちゃいけないなんて、無理だろ。するとかしないじゃなくて、落ちてるもんだ。俺はもう、落ちてるよ」
はとちゃんの手を引いて、身体を寄せる。身を乗り出してはとちゃんの唇を奪い、口の中をひと舐めする。シロップのぶん、ほんのりと甘くとろける。
上顎をなぞりあげると、はとちゃんは舌を引っ込め、
「……あ、は、っぁ」
敏感に反応して、身体がびく、と震える。困ったようなとろけた瞳で、なすがままにされる。奥へと逃げたざらつく舌の先を舐めまわし愛撫すると、震えながら俺の手首を掴む。温かくて細い裸の指だ。それは抵抗かな、それとも懇願かな。俺の手はびくともしない。
唇を離して、鼻先を突き合わせて瞳を見つめる。長いはとちゃんのまつ毛が、眼鏡に触れてしまいそうだ。
顔が真っ赤になり、瞳にうっすら涙を浮かべた丸い目玉は、焦点が合わず揺れている。
本当に、嗜虐心をそそるいい顔をする。台無しにしたくなる。
俺は優しくささやきかける。
「俺……はとちゃんの、友達以上になりたいな……? はとちゃんは、俺の前では女の子だよ。守ってあげるよ。いけない好き、しようよ。俺は君のためなら悪い人にもなれる」
なれるじゃなく、もう俺は悪い人だけど。
はとちゃんは、口付けられたままの形で半開きの唇を戦慄かせ、さっきの困った顔をする。
「……だ、め、きもちよく、なっちゃう……」
「男の俺にキスされて、気持ちよかったの? そっかあ、はとちゃんは女の子の才能があるね」
もう一度、駄目押しみたいに唇を重ね、吸い付く。すぐに離すと、名残惜しいみたいに俺の唇をはとちゃんは目で追った。
「あう……しゅ、しゅうとさん、ぼくのこと、好きなの……? ぼく、わるい子だよ。しゅうとさん、ぼくのこと知ったら、きらいになる。でも、でも、ぼく……しゅうとさんといっしょにいたい。ぼく、どうしたらいいのか、わからない……」
「俺の気持ちはもう話したよ、はとちゃん。俺の好きは、恋人になりたい好き。好きだよ。はとちゃん……このあと、いいところに行こう? もっと仲良しになれるんだ。来る気がないなら……今日はもう、おしまい。どうする?」
「……それは、お金がかかりますか?」
「俺がぜんぶ出してあげるよ。気にしなくていい。2人じゃないといけないところだから、ついてきてほしいんだ」
「行きたいです。しゅうとさん……やさしくて、大好き。あっ、おいしいカフェモカ、ぜんぶのんでからでいいですか」
「勿論。ありがとう、はとちゃん。仲良し、しようね」
男同士だと退けられる店もあるらしいが、はとちゃんはそうは見えないからか、すんなりとラブホテルの一室の鍵を借りられた。
エレベーターの中、手を繋ぐ。
マラソン選手のウイニングランはこんな気持ちなのだろうか。もうすぐだ。高揚感で、笑みが抑えられない。
鍵を開けて、はとちゃんを入れて、鍵を閉めて。はとちゃんは靴を脱ぎ、からし色の靴下でてくてくと部屋を進む。
かかとに穴が空いている。
俺はコートを脱いで、バッグからコンドームとローションを取り出す。テーブルの上に置く。
「わあ、きれいなおへや。ベッド、おっきい。ふかふかー。しゅうとさん、ここでなにしてあそぶの? あ、テレビある。テレビゲーム?」
ベッドに腰掛けたはとちゃんを、押し倒して覆い被さる。きょとんとした目。唇を奪う。小さな顔を、耳を、髪を撫で、首から胸へとまさぐる。
「ふぁ、しゅうとさん、だめ、だめっ……! ぼく、だめなの、いしきなくなっちゃう、へんになっちゃう……! さっきも、ちゅーで、あたまが、くらくらして……きもちよくなるのは、だめなのっ……!」
「痴漢されて意識無くしたのは、それで? 知らない人に身体触られて、気持ちよかったの? はとちゃん、えっちだね」
カーディガンのボタンを外し、シャツの裾をつまむと、はとちゃんはいや、いやと服を下げ、めくられるのを必死に抵抗する。
レイプしてるみたいで、興奮する。
無理やり服を顎下まで開帳させると、スポーツブラをした胸が露わになる。華奢で、肋骨のくぼみが見えていやらしい。はとちゃんはお腹を震えながら手で隠している。
「胸じゃなく、お腹を隠したいの? 変わってるね、もっとよく見せてよ……はとちゃんのこと、もっと知りたいなあ……?」
手首を掴み開かせ、白いお腹を晒させる。
そこには、大きな縫合痕があった。
うっすら生えた陰毛の生え際から、ぐねぐねとした歪な線がへそのすぐ右脇を通って、肋骨の下近くまで届いている。へそは右側に引きつるように拡がり、奥がよく見える。
手術の痕? いや、それならもっと直線なりきれいな曲線を引くだろう。これはまるで……そう、
今の俺みたいに覆い被さって、右利きの奴が、ナイフを刺して手首をぐちゃぐちゃに回しながら切腹してやった、みたいな。
「や……あ、あ……み、見ないで……ごめんなさい、ごめんなさいっ……」
はとちゃんは、泣いていた。この傷を見られたくなくて、抵抗したのか。
俺は背筋が凍るような感覚がして、手を離す。はとちゃんはめくれた服を戻して、お腹を隠すように膝を腹に近づけ、顔を手で覆った。スカートの下のパンツが見えている。女物だ。
そういえば、痴漢した時も、バッグをお腹に抱えていた。てっきりバッグを盗まれないようにしたのかと思ったが、もしかして、お腹を触られたくなかったのかもしれない。
「……どうしたの、それ。誰にやられた? 誰がはとちゃんを傷物にした? こんなの……。はとちゃん、痛かっただろ。俺、許さない……誰がこんなことを」
「…………お父さん……」
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