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歌の1。歌を忘れたカナリアは
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歌を忘れたカナリアは
鳥骨村
「カーラース、何故鳴くの…」
懐かしの子守唄
頭を撫でる優しい手のひらの感触
「でももう要らない」
それを払い除ける腕は逞しく
「俺は大人になった」
腕の中に抱き寄せる
「大人になった俺が欲しいのは花嫁だ」
キスを迫る男に
「調子に乗んじゃねえ!」
ゴンッ
「あいったぁーっ!」
杖で殴られる
「痛いよ巫女さん!」
「ガキが色気付きやがって!また霧が出るのを待て!」
「待たなくて良いよ」
黒い瞳を細める
「あちらから来てくれた」
「ふん!折角逃げられたのに…いや…お前の仕業か…」
「俺は神だから何でも出来るんだ」
恵みも
災害も
望むがままに
「ちっ!」
「また舌打ち…」
烏哭市駅
「それではお気をつけて」
「ありがとうございます」
駅員に手伝ってもらい
電車から下ろしてもらう
「疲れてない?結構長旅だったけど」
「全然。思ったより早かったです」
車イスに乗った蒼太を甲斐甲斐しく世話をする
「すみません誠史さん…僕が乗り物酔いしたためにご迷惑を」
「元弥君大丈夫?」
一足先に降りた元弥は真っ青になっていて
「元々の顔なんだか具合が悪いんだか分からないな」
鳥辺野が水を飲ませる
「前回は酔わなかったのに…」
「消化に悪いものでも食ったか?」
剛と鳥見幸一も心配そうにやって来る
「いいえ。蒼太さんと冷凍ミカンと甘栗を食べたくらいです」
「それだ」
30分ほど休憩し
駅の外に出る
「帰りは電車内でのミカンと甘栗は禁止だな」
苦笑しながら電話をかける
「すみません。連れが乗り物酔いになりました。ああ、もう着いてます?」
「誰かと待ち合わせか?」
「ああ。一日だけここの観光ボランティア。車イスでも利用できる施設や便所を教えてくれる」
「せんべい工場見学も?」
「お前本当にせんべいが好きだな…」
「お待たせしました!」
書類を持った女性が小走りで来るも
「佐々木?」
「京介さん?」
京介に似ていて
「鳥辺野教授。この間はお疲れ様でした」
しかし声は女性そのもので
「お前の知り合い?」
「いや?失礼ですがこの間お話ししましたか?」
「いえ、講義は聞いていました」
「眠くなったでしょう?こいつ講義が下手だから」
「恩師に向かってこいつとはなんだ!」
「ふふっ」
蒼太と幸一のやり取りを見て笑っていたが
「すみません。今日1日観光ボランティアを務める烏丸美幸(からすまみゆき)といいます。そこの烏哭神社(ちょうこくじんじゃ)の宮司もしています」
「女の宮司さん?」
「はい」
「蒼太さん。女性の宮司は全国にも何人かいます」
「はじめて知った…」
「夏輝さんは説明していました」
「あはは…寝てたかな?」
「では早速観光コースをご案内します。リクエストはありますか?」
「せんべい工場」
「少し遠いですが大丈夫ですか?」
「それは明日にします。今日は近場でお願いします」
「では当烏哭神社をご案内します」
烏哭神社
「立派な神社ですね」
「ええ。パワースポットとして昔から有名ですから。この神社の神はひとつ目一本足で常に無くなった片割れを探しています。その力は他人の無くしたものを見つけ出せるほどに」
「失せ物を探す事ができるのですか?」
「はい。他にも縁結びがありまして。今はそれがメインです」
「そうなんだ。トリィ、ついでに拝んだら?」
「うっさいわ!…と烏丸さん。恋愛成就のお守りはどれですか?」
「結局買うんかい!」
「剛志も買ったら?」
幸一と蒼太のやり取りを見ていた誠史が剛志にも促す
「何を?健康?幸太郎の縁結び?」
「お前自身。彼女を作らない?」
「バカじゃね?俺には幸と芳美が居る」
「それはそうなんだけど。烏丸さんとか。可愛いよ」
「お前が妹を増やしたいだけだろ…それならトリに紹介しろ」
「あの…」
「うちのバカ共がすみません」
誠史と剛志の話を聞いていた美幸が不愉快そうな表情を見せる
「私も彼氏がいます」
「ですよねー!」
笑いながら誤魔化す
「鬼足っぽい人かな?」
「鬼足…優人?」
鬼足の名前を聞いた瞬間
美幸が名前を出す
「優人さんをご存じなんですか?」
乗り物酔いで元気のなかった元弥が大声を出す
「え、あ…元彼です」
「そうなんだ。あいつもここの出身ですか?」
「いえ、隣町の出身です。あいつとは遠距離になったので自然消滅した感じです」
「すみません…」
「いえ、謝罪するのはこちらですから」
いつの間にかまとわりつくように霧が発生する
「うちの神様があなたが欲しいとおっしゃっています。鳥辺野教授」
美幸の手の中にある護り袋
「幸太!」
「この子はここの神として大切にしますので、ご安心を」
『兄さん!』
和臣に似た弟が手を伸ばすも
幸一の手は霧に阻まれ
消えていった
「これで良いですか?」
今まで居た数人の男達が消え去り
美幸一人となる
カツン
「上出来だ美幸」
杖の鳴り響く音が
空気の振動と共に伝わる
「優人の知り合いなんだから無茶はしないでね」
優人から送られてきた
自分に良く似た男や
仲間達との写真
「分かっている。お客さんは大事にもてなすさ」
クスッ
「ひいひいおじいちゃんは今一信用できないな」
「なんだとこのヤロー!」
「私は女ですぅー!」
「あれ?ここどこ?」
蒼太の不思議そうな声
急に霧に囲まれ
霧が晴れると共に現れたカビ臭い建物
「蒼太」
誠史が懐からナイフを取り出す
「おまっ!何てもんを持ち歩いてんだ!」
「鬼梨の件からずっとだよ。剛志もだよな」
「うん」
剛志も蒼太を庇いながら上着に隠したナイフを見せる
「お前らは暗殺者か…」
ため息をついていると
カツン
「久し振りだな。元気にしていたか?」
「巫女さん」
蒼太に似た男が男に手を引かれ現れる
「あの子蒼太に似てるね。でも蒼太の方が可愛い」
「誠史さんたら…それにしてもここはどこなんですか?」
「ここは烏骨村(ちょうこつむら)。昔の烏哭村だ」
「折角の旅行なのに申し訳ないな。精一杯おもてなしをするからさ」
「いや別に。誠史さんと新婚旅行の続きができれば、地獄でも天国です」
「嬉しいよ蒼太!俺も蒼太と一緒ならどこでも良いよ!」
「旅行中はうちの男共がヘルパーとしてあんたの介助を行う」
「ありがとうございます!お世話になります。ヘルパーの鳥刺さんが居ないから助かりました」
「良かったね蒼太」
「ヘルパーなら居るだろう?あれ?あの子の名前…」
「蒼太のヘルパーは今鳥井村に居る。あの人はあまり人ごみのある場所に行けないって前に言っただろ?」
「パニック症候群らしい」
「そうなんだ。じゃなくて!…もう一人も居ない…」
「もう一人?男ばかりで旅行って寂しい趣味だな」
「余計なお世話だ!確かに俺達6人で…」
「俺らは4人で来たじゃないか」
剛志も不思議そうに言う
「だよな誠史」
「うん。俺達4人で新婚旅行。お前達は違うけど」
「男4人で新婚旅行ー?」
巫女のひきつった笑顔に
「ちょちょちょ!引くなよ!」
「ドン引くわー!」
巫女の付き添いの男も引く
「何が楽しくて男だらけの旅行?」
「うっさい!それよりこれも夢なんだろ?だったら次に目を覚ませば」
「いや。夢じゃない」
巫女が笑う
「これは現実だ。うちのタコ…神様が成人なされて力もついた」
「今ならあなたを愛せる」
力強い腕
願いを叶える力
「今度は逃がさないよ兄さん」
続く
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