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ー片井side25ー
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柳原が父親から解放されて、1週間が経った。怪我の経過は良好だが、相変わらず摂食障害だけが残っている。話している分には随分と柔らかい笑顔を見せるようになったが、どうせ柳原の事だからまた痩せ我慢をしているのだろう。
主治医が言うには、食べ物を口に含むだけで嘔気を催してしまい、十分な栄養がとれていないとのこと。心配をかけたくないのか、「後で食べるね」と言って、食べているところは決して俺に見せないようにしているようだった。
かく言う俺もあの事件から、また柳原が居なくなるんじゃないか…と、何度もフラッシュバックするようになり、学校以外は柳原の病室にいる事が殆どとなった。俺がずっと付いていることで、柳原がまた変な気を遣うことはわかっているのだが、何より俺が不安で潰れてしまいそうなのだ。出来れば片時も離れたくない。まるで母親から離れられない子供のように。
…それ程、今回の件は2人にとって、心に根強く残る事件となってしまったのだ。
「片井くん、ちゃんと寝てる?目の下のクマが凄いよ。…俺はもう大丈夫だから。耳が痛いだろうけど、受験だってあるんだし…。」
「問題ない。少なくともお前よりはちゃんと寝ているし。…俺がお前のそばにいたい。それじゃダメか?」
「片井くん…。」
いくらそう弁解したところで、こいつは優しいから…俺のことを心配してくれるのだろうな。
「受験対策なら沢山持ってきている。…一緒にいてつまらないかもしれないが、横で少し勉強させてくれ。」
柳原の額に優しく啄むようなキスをすると、「片井くんが勉強ばっかなのは、今に始まった事じゃないよ?」と、目を細めて微笑んだ。
…良かった。いつもの柳原だ。
そんな事を話していると、ノックの音が聞こえてきて、2人同時に「はい。」と返事をした。
「よぉ~具合どうだあ?」
「あー!黒ちゃんせんせーじゃん!!この度はご迷惑お掛けしました…ぐすん。」
「なぁに改まってんだ気色悪い!ほんと…片井がいて良かったよ。もっと早く行ってやれなくてごめんな?」
「ううん。俺が病院抜けて勝手なことしたからです。…2人ともごめんなさい。」
悲しい顔をしてそう言う柳原を見ているとこちらまで胸が痛くなり、黙りこくってしまった。それを見かねてか、黒澤先生はお互いの髪がぐっしゃぐしゃになるまで頭を撫でて、「もう反省会はしまいにしようぜ。」と困ったように微笑んだ。
「具合悪いとこ申し訳ないんだがな、本題を言うと、メディア関係者が事情聴取に来てんだ。被害者の柳原を初め、立ち合った俺と片井にも話を伺いたいそうなんだ。…2人とも今から大丈夫か?そう長くはならないように頼んである。」
「…柳原、どうだ?話せそうか?」
「うん。大丈夫…。もう済んだことだし、ね。」
“もう済んだこと”という台詞を、事件の後から自己暗示のように唱える柳原。何ひとつ、大丈夫なんかじゃないのに。
…それでも柳原は、自分の事を差し置いて俺の顔色を伺うと、優しく「片井くんは辛くない?大丈夫?」と聞く。
…柳原に優しくされる度、本当にやるせない気持ちになる。俺はただ、頷いて手を強く握ることしか出来なかった。
「片井くん、あのね。話してる間だけ、手…繋いでてくれる?」
「当たり前だ。…1人じゃない。2人で、話そうな。」
そう言うと柳原は深く息を吐いて、黒澤先生を見て頷いた。
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