アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
「ただいま。」
「おかえり、昴。情報は集まったのか?」
九十九昴と向田篤志が『SUBARU』に戻ると、BARの支度を終えた藤城悠達がカウンターで休憩をとっていた。
「うん。結構沢山集まったよ。」
「ついて行ったはいいけど、いつ情報収集していたのか全くわからなかった。俺にはただの散歩にしか見えない。」
向田篤志の言葉に有村春一が吹き出した。
「ずっとだよ。昴は、情報収集が癖になってるんだ。何をしていても、常に頭の何処かで情報を探してる、情報オタクなの。」
まだ開店まで30分はある。藤城悠と有村春一の間に腰掛けた向田篤志は出されたお茶を啜ると、大真面目に藤城悠に対して見えない矢を放った。
「それでは、せっかくのデート中でも、その頭の中は目の前にいる恋人ではなく、周りを飛び交う情報でいっぱいな訳だ。」
「人が気にしていることを言うなよ??結構あれはあれで傷付くんだ。デートに行って帰ってくると、必ず『楽しかったね。』の後に『沢山情報も集まったし。』とか『いい情報が手に入ったよ。』とか………。はぁぁ。」
藤城悠の吐いた重いため息に、有村春一と向田篤志は顔を見合わせて哀れみの瞳をむけた。
「おかえり、昴。話は出来た?」
藤城悠たちから少し離れた席に座る井端甫の隣に腰掛けた九十九昴は、彼の勘の良さに思わず微笑みを浮かべる。
「やっぱり…気づいていたんだね。」
「何と無くだけどね。」
井端甫はそっと九十九昴の手に触れた。彼の手は、温かく、優しい。向田篤志とは違う優しさがある。そんな優しい彼にのし掛かる重たい何かを、井端甫は見えなくなってしまったその目で、見た気がした。
ほおっておけないと思った。だから、向田篤志と命の恩人である九十九昴の力になると、約束したのだ。
そばにいて支える事しか、話を聞くことしか出来ないかもしれないけど、友人だから、恋人ではないから言えることもあるだろう。
「僕は昴の友人として、此処で君の力になりたい。君がどんな道を進もうと僕は止めない。僕は何もできないから。今の君が抱えるその重い荷をおろす方法を知らないから。
今君が進んでいる道が最良の道だと、僕は信じてる。
僕にはもう、篤志以外に失うものはないから。…………怖くないよ。大丈夫。」
九十九昴は井端甫に握られた自分の手を見つめた。
「ありがとう。それから………ごめん。
君を遠ざけようとした。守りたいものが増えることを、怖いと思う自分がいるんだ。
もう、失いたくないと。
俺にとって今、一番大切なのは悠だから、彼を護る為なら何だってすると思う。今、情報を得るために何でもしているように…。
甫を裏切るかもしれない。だから…そんな事したくないから、遠ざけようと思った。
でも、友人が増えることはやっぱり嬉しいものだね。短い期間で築いた絆でも、尊いと思う。だから、篤志さんとも約束したけど、ちゃんと全てを話すよ。俺たちの知っていることを全て。」
井端甫が頷いたのと同時に、BARを開ける時刻がやってきた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
33 / 70