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10 (過去)
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「昴‼︎‼︎‼︎」
両親と、夏目直孝の叫ぶ声が広い和室に響く。九十九昴は自分が置かれている状況を理解するのに時間がかかった。
「母様、父様!」
「昴‼︎息子を離して‼︎」
九十九昴の母が立ち上がって叫ぶ。その肩を父親が掴み、自分の背に隠すようにして立った。夏目直孝が母親の側に駆け寄り、声をかけている。
まるで、ドラマのワンシーンのようだと九十九昴は考えていた。何故、母親が泣いているのか、何故、父親が母親を庇っているのか、わからなかった。
それから数秒、
ようやっと自分の置かれた状況を理解した九十九昴は自らの首にあてがわれているナイフに息を飲んだ。
「ひゅっ………たす…け…」
「さぁ、分かっているんだろう?息子を返して欲しいなら、例のものを出しな。」
赤髪の男は、九十九昴の白い首にナイフの刃を叩きつけながらバカにした様な口調で命令する。ペチッペチッと当たるナイフに冷や汗が止まらない。
ただ時間だけが流れた。それから数十分と感じられた時間はきっと数秒程度であったのに違いは無いが、極度の緊張状態により、時間感覚が通常の倍に感じられた。
動いたのは、夏目直孝だった。
夏目直孝が九十九昴の両親に何かを耳打ちすると、泣いていた母親は泣き止み、悲しそうな瞳で九十九昴を見つめた。父親は俯いたまま顔を上げない。夏目直孝だけが唯一、普段と変わらず平静を保っていた。
「…ない。……例え息子が死のうと、あれを渡すわけにはいかない‼︎」
父親の声は震えていた。それは、九十九家当主として厳しい決断を下さねばならなかったからなのか、それとも…
「ほぉ。そんなにあれは大事か?」
その言葉に、顔を上げた父親の表情は今まで見た事のない悲しみと愛しさと悔しさ、そんな感情がない交ぜになったような、そんな表情だった。
《 ドスッ 》
目の前で父親が血を吐き倒れた。赤がべっとりとついた小刀を握り締める手が赤く染まっている。
いつもきちんとボタンを止めているワイシャツの袖口が赤く染まり、その手が、母親に向けられた。
まるでスロー再生でも見ているかのようだ。九十九昴は何がおこっているのか、理解できなかった。いや、しようとしなかった。
目の前で父親と母親を刺している男が、まるで知らない人の様に映る。
あの人は誰だと自分に問いかける。しかし、返ってくる答えはただ一つ。
夏目直孝だ。
「直孝…さん?」
彼の手が、血で赤く染まっている。
「そろそろ、仮面をとってもいいかな?」
「もうとってるだろ?」
まるで知り合いのような二人の会話に九十九昴は目を見開く。
「あれの在りかはわかった。その子はもう用済みだ。時間がない…捨て置け。約束だ。」
「ちっ…まぁいいさ。こんなガキ、殺ろうと思えばいつでも殺れる。」
投げ飛ばされた九十九昴は力なくその場に蹲り、現実を受け入れられないでいた。
「な…んで…?」
屋敷の奥へ、夏目直孝と赤髪の男が消えると畳を這って両親の元へと向かった。
「母様…父様…」
答えは返って来ない。いつもの優しい声を聞くことは、もうない。しかし、不思議と涙は出なかった。ただおかしい。頭がおかしくなってしまうような感覚。狂ってしまう。そんな恐怖に襲われた。
誰でもいい。おかしくなりそうな自分をここへ繋ぎとめてくれる誰か。名前を呼んでくれる誰かを求めて、まるで獣の様に九十九昴は叫んだ。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
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