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「甫を屋敷から助け出した時には酷い火傷を負っていた。俺にはどうすることも出来なくて、近くに来ていた救急隊員達に任せる他無かった。」
九十九昴の瞳が揺らぐ。夏目直孝と共に死んだと思っていた赤髪の男が生きていた。
「直孝さんも奴に殺されたって事?あの時屋敷を爆破したのはあの男って事?直孝さんの隣で死んでいたのは誰?なんで…俺の前に現れない…」
握りしめた手から流れ出た血が、ズボンにしみを作る。心臓と拳の大きさは同じだという。心を指す時、人は皆、心臓のあたりを示す。
左手にある傷跡から再び溢れてきたかのようなその様は、まるで九十九昴の心を表している様だった。
溢れ出した血を止めることなく、さらに力を込めて握りしめて行く。深く深く自らを追い詰めている様なその様子は、九十九昴を酷く脆く感じさせた。
「直孝さんのおかげなんじゃないのか?」
そっと九十九昴の手に重なった手が、力を込める。指と掌の間に指を絡ませ、これ以上傷つかない様にしている。
「直孝さんの?」
隣に座る藤城悠を見上げる姿は、6年前のあの日に戻ってしまったかの様に、幼く映る。
「ああ。あの日、直孝さんがとった行動は全て、昴を守る為だったんだと俺は思ってる。あの時直孝さんがしたことの何かが、赤髪の男から、昴を意識外にはじき出したんじゃないか?」
昔から頭の良い夏目直孝は、計算高い男だった。言い合いになる事があっても、勝てた試しが無い。何もかもが、世界が、彼の手の中で転がされている様な、そんな感覚を覚える程に。
よく、魔法みたいだと思った。まだ彼にであって間も無い頃に言い合いになった時の話だ。大した事ではない。
ただ、彼があまりにも九十九昴に綺麗だとか、可愛いとか、美しいとか、恥じらいもなくそんな事を言うものだから、たまたまその日言い返したまでの事だった。
「よくもそんな事を、恥ずかし気もなく言えますね。誰にでも言っているんでしょう?」
「見たままを言っているだけだから、恥ずかしいなんて思わないさ。それに、私は君にしかこんな事は言わないよ。」
いつも彼は笑っている。楽しいわけでは無いだろうに、いつも和かだ。
「それだって皆に言っているんでしょう?男の俺を口説いて何が楽しいんですか?腕試しですか?」
「ああ…しまった。言葉を間違えてしまった。あれではまるで、女遊びに慣れているふしだらな男の台詞だ。」
まるで言葉遊びをしているような夏目直孝に、九十九昴は思わず笑ってしまった。
「ふふっ。貴方が女遊びに慣れているなんて思いませんよ。誰がどう見てもそんな事には無縁だ。」
「それは心外だな。私は今、持ち得る限りの知識を全て使って、君を全力で口説いているというのに。」
「そんな真面目な顔してふざけないで下さい。何度も言いますが、男を口説いたって仕方がないでしょう?」
「そんな事は無い。世の中には男しか口説かない男だっているんだから。現に君はそのうちの一人だと、私には見えるんだが?」
夏目直孝の指摘に、九十九昴は思わず息を飲んだ。今まで誰にも気付かれた事は無かった。そもそも、自分が男に魅力を感じてしまうのだと気づいたのは最近の話だ。
「何を…根拠に?」
「あれ?もしかして隠していたのかい?彼の前での君は誰が見ても分かるほどだというのに。」
「…引かないの?」
九十九昴の質問が、まるで意味のわからない様な、そんな表情を浮かべる。
「引くわけが無いでしょう?ずっと言っていたのに本当に気づかなかったなんて…。さっきからなんの話をしていると思っていたの?」
本気で自分を口説いていたんだと気づき、顔が熱くなる。
「回りくどい…」
「自分で気づいた方が、実感がわくでしょう?」
きっと夏目直孝は、鈍感な九十九昴を楽しみながら話していたのだろう。彼のおもちゃにされていたことに少し腹が立った。
「馬鹿にしないでください??もうっ、さっきから貴方は何を書いているんですか?」
話し始めた頃から、夏目直孝は何かを書き留めながら話していた。
「これかい?これは予想だよ。ちょっとしたゲーム。君が返すだろう言葉を予想して、先に書き留めていたんだ。」
夏目直孝の手から紙を奪い取ると、その内容に驚愕した。殆ど自分の言ったことと変わらない内容の言葉が書き留められている。
最後に記されていた言葉に、更に顔が赤くなった。
「もう!当分絶交です??」
「おや?おかしいな…最後だけ外れてしまった。」
本当に不思議そうに言うものだから、思わず気が抜けてしまう。いつも彼には敵わないのだ。
ーすごい…
紙を見て思わず、呟きそうになったその言葉を飲み込んだ。そこに記されていた言葉こそ、今自分が呟きそうになった言葉そのものだった。
彼は、九十九昴がこのタイミングで紙を見ることも、全て予想していたのだ。
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