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『DED』編へ
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開店前の店内に朝日が差し込み、辺りを漂う埃が、キラキラと輝いて見える。
普段は視界にすら入らず、塵などとともに除去されるべき埃が、朝日により美しく輝き、目にする者に朝を告げる。
どんなに綺麗に掃除したとしても無くなることの無い埃は、常に人々の生活の中に存在し、酸素と共に体に取り込んでいる。
夏目直孝はよく物事を何かに例えることをした。九十九昴達が歯車である。過去が楔である。と言うのも、夏目直孝が九十九昴に話した例え話だ。
そんな例えの中に、過去を埃に例えた話があったことを、九十九昴はふと思い出した。昨晩、夏目直孝達の話をしたからか、今まで忘れていた事を最近よく思い出す。
塵や埃といった物は、人が生み出す物だ。特に埃は塵よりも微細で、とても小さな粒子だ。普段は殆ど気にすらならない。
しかし、光が当たると、それはキラキラと輝きその存在を主張する。それが、思う自身にとっての過去に類似すると、夏目直孝は考えたのだ。
普段は今という時間を生き、過去という存在がそこにあるのだということを知りながらも気づかずにいる。それが、埃の様に朝日や、太陽の光が当たるからというわけでは無い。
思う自身にとって、過去に目を向けざるを得ない、埃にとって光である様な存在が現れた時。例えば、それをきっかけとして人は、過去の存在を忘れる事なく、そこにあるのだと常に認識させられる。
人々は過去を疎う。それは埃にも言えることであり、どちらもその人により生み出されたものである。
夏目直孝の例え話は過去についての事柄が非常に多かった。それは、彼自身が過去にとらわれていたからなのか、もしくは、九十九昴達が、訪れる未来で、過去に翻弄される事を予期してなのかは、不明だ。
何にしても、九十九昴達が過去から逃れるという事は無理なのだ。彼らは、自ら楔を打ち付け、朝日の当たる埃を眺めることを選んだ。
「おはよう。」
それは、魔法の言葉だ。朝を告げる、人が一日の始まりを告げる言葉。
「おはよう、悠。」
物思いに耽りながら、舞う埃を眺めていた九十九昴は、藤城悠に魔法をかけかえした。
これから始まる死と隣り合わせの時間の開始の合図。その日を迎えられた事を確認し合う、合言葉。
様々な者に合う為の言葉だ。
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