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九十九昴は、目の前の男の言葉の意味が理解できなかった。似ても似つかない顔に、まるで違う性格。体型は似ているが、それ以外、似ている部分など全く無い。
「何を………お前が、直孝さんの弟?」
声が震える。赤髪の男が、九十九昴を動揺させる為に吐いた嘘の可能性だってある。冷静に対処しなければならない。
「疑ってるのかい?」
「当たり前だ。…お前と直孝さんは全然似ていない。」
口では否定するものの、赤髪の男、夏目史隆と、夏目直孝は本当に兄弟なんじゃないかと思う自分もいる。
九十九昴は、夏目史隆が今、此処で嘘を言う必要の無いことをわかっていた。立場的に有利な相手がわざわざ嘘をついてまで、九十九昴を動揺させる理由が無い。
「それは当然のことだよ。何故なら、直孝兄さんと俺は母親が違う。兄さんは母親似だから、俺と似ていないのは当然さ。」
九十九昴は、夏目直孝から弟がいるなどという話は聞いたことがなかった。
しかし彼から、自らが母親似であること。母親が早くに亡くなり、父親が再婚した為に、今は血の繋がらない母親と暮らしていると、聞いた事があった。
「本当に兄弟なら、何故直孝さんを殺した?」
信じられなかった。異母兄弟ではあるが、血は繋がっているのだ。家族を殺す事など、考えられない。
「殺す?…何の話?」
「とぼけるな!直孝さんを、何故殺した!」
怒鳴る九十九昴に、夏目史隆は両手を挙げて、呆れた様にポーズをとって見せた。夏目史隆の、その余裕っぷりに、更に頭に血がのぼっていく。
「俺は何もしてない。直孝兄さんは自分で勝手に死んだんだ。…それより、君は不思議だね。何故、誰も殺していない俺を恨む?君の両親を殺したのは兄さんじゃないか。」
夏目史隆の言葉に、九十九昴の心が揺らぐ。考えてみれば、夏目史隆は脅しただけで、両親を殺したのは夏目直孝だ。
何故自分は夏目直孝ではなく、夏目史隆を恨み、追い続けたのだろう。
「…どう、して……かな…」
考えていると、だんだんと意識が遠のいていく。視界が歪み、夏目史隆の顔がぼやける。
最後に見たのは、夏目史隆の笑った口元だった。
九十九昴の体が倒れる寸前に、支えに入った夏目史隆は、彼の足元に転がる香袋を拾い挙げた。
火を吹き消し、ポケットの中に押し込む。
「さぁ、行こうか。…昴。」
九十九昴を抱き上げると、夏目史隆は香の漂う路地裏の闇の中へと姿を消した。
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