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あの一件から一週間。
喫茶 『SUBARU』は通常営業に戻った。
右手の使えない九十九昴は、カウンターでお客さんとのお話に夢中だ。
「えぇっ⁈お姉さん、彼氏いないんですか⁈
綺麗だからてっきりいるものだと思ってましたよ〜。」
「お世辞はいいよ〜。昴ちゃんのが綺麗だもん。お姉さん、妬けちゃうよ。会社の男共はみ〜んな、昴ちゃんのファンなんだから‼︎」
他愛のない会話にも笑顔を見せる。
彼が立ち直るのは早かった。藤城悠の腕の中で枯れるほど泣いた後、そのまま一緒に眠りについた。
その翌日にはすでに今のように、何事もなかったかのように笑っていた。
「へぇ〜。知らなかったです。…皆さん物好きですね。悠が知ったら、皆きっと立ち入り禁止にされちゃいます…。」
ふと、辺りを見回す。藤城悠の姿は見当たらない。
「悠って、店長の?」
「うん。俺の旦那‼︎…さっきの事は、悠には言っちゃダメですよ。立ち入り禁止にされちゃいます!」
少し声のトーンを落としてこそこそと話す九十九昴は、いたずらを思いついた子供のようだ。
「旦那⁈いいな〜。あたしも恋がしたいよ〜。やっぱり、大事なのは中身よりも外見‼︎」
そう呟く女性客に九十九昴は少し考え込むと、席を立ち、奥から有村春一を連れてきた。
「中身気にしないなら、この人なんかいかがでしょう⁈お安くしときますよ。」
「おいっ! なんだよ、突然!」
無理やり連れて来られた有村春一は眉間に皺を寄せて、どうやら怒っているようだ。
「いいね〜。かっこいいし!おいくら?」
「本当にいいの⁈」
九十九昴の驚きっぷりに、女性客は首を傾げた。
「勝手に人を売るな‼︎俺は女に興味ないし。
香水臭いのは本当ダメ。土下座されてもお断り‼︎つまり、あんたは以ての外なわけ‼︎」
そう言い残すと彼は奥へ戻って行った。
「…。」
唖然とする女性客に、九十九昴は微笑みかけた。
「ほら、あんなの嫌でしょ?中身も結構大事だってわかったかな?人は見た目じゃないから気を付けた方がいいですよ。」
「…。口は悪いけど、やっぱりいい男‼︎」
女性客の言葉に思わずため息を漏らす。
「ところで…なんでお姉さん川島亜希さんの事知ってるの?」
そう、この女性客と九十九昴が話し始めたきっかけは川島亜希という名を彼女の口から聞いたからだった。
「えっ…あぁ、亜希の知り合いなの?
あたしはあの子と大学が一緒だったの。もちろん今は会ったりなんてしてないよ‼︎」
慌てて否定する女性客に九十九昴は首を傾げた。すると、後ろから有村春一が現れて話に加わってきた。
ーさっき、あんなに怒っていたのに…
「そりゃそうだろうな。あいつ、今は陣内組の女だそうじゃないか。」
有村春一の言葉に女性客は声を潜めて話し始めた。
「そうなの!あの子、ずっと自分には幼い頃から決まっている許嫁がいるって言ってたくせに、よりにもよってヤクザなんかと!」
女性客の話によると川島亜希は大学でも井端甫を許嫁だと言っていたようだ。
有村春一もそれは初耳の様で、驚いた様子だった。
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