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ハル
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ハル、と名乗った俺は実際ハルではない。
名前がなかった。宇宙では脳内に話しかけたり相手が思っていることを勝手に見たり、そんなことしかしないので名前が必要なかった。
この前に俺の担当だった人間がろくでもない人間だったらしくその人間の脳の記憶から俺の存在を全て消し去った。
観察対象者が規定違反をすると俺たち宇宙人の記憶を彼らから消さなければならない。
記憶を消す、というのは本当はやりたくない。奏汰には、もっとやりたくない。
そんな感情がどこからか溢れ出す。
なんとなく、奏汰と過ごしていてどんな時に楽しくなるのかわかってきた気がする。
こんなの65年ぶりだ。
宇宙人は観察対象を自分で決めれる。
奏汰には、くじで決めるとか言っちゃったけど実際は自分で資料から探すことになっている。
奏汰は、資料で見た時
優しそうで、そしてどこか切ない目をしていて興味がわいて観察することにした。
俺は、65年前、あるおじいさんを観察していた。
「名前が無いのかい」
「はい」
「じゃあ、わしが名前をつけてもいいかね」
「名前、なんていらないです」
「いいや、だめだ人間じゃないとしたって名前が無いと可哀想だろう」
微笑みながら発言したその言葉に衝撃を受けた。
感情というものを上手く表現できない宇宙人はこんな時どんな顔をするのだろうと考えた。
心の中では嬉しいという感情のようなものがあるはずなのに、
どうしてか表情に出せない。
表情に出せないのがどんなに悲しいことか、俺はまだ少しだけわからない。
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