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涙
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春、驚くほどに自分でも気に入っている名前。
暖かいもの、とおじいさんは言っていた。
けれど、そんな意味がある"春"は本当に俺にあっているのだろうか。
それとも・・・飼い犬のように所持物として名前をただ付けただけだろうか。
「涙、ってどんなもの?」
「水みたいなものだよ
キラキラして綺麗」
「泣いたことある?奏汰は、」
奏汰が変な表情をする。こんな奏汰の表情初めて見た。
俺には理解出来ない表情だからなんて声をかけていいかわからない。
今どんなことを考えてるんだろう。
脳を勝手に見れば1発だった。けれど、奏汰とは心で通じあいたいと思った。
奏汰、と呼ぼうとすると、奏汰が話し始める。
「春が色々話してくれたから、俺も話していい?」
「うん。いいよ。」
奏汰は一呼吸置いてから言葉を吐き出す。
「俺には昔大好きだった恋人がいた。」
そう言葉を口にした瞬間の奏汰はとても悲しい顔をしていた。
今から奏汰が話し始める内容がどんなモノかは俺にはわからない。それを俺が受け止めきれるかもわからない。
でもそれを怖がってしまったら何もできないと思った。
「その恋人の名前は、鈴。すごく綺麗で華麗で、魅力がある人だった。
鈴は高3の時・・・ね、死んじゃって、こんな話しするのもすごく苦しいんだけど、多分今もずっと俺は鈴が好き。
その時くらいかな、泣いたのは。心に刻み込まれるようなえげつない感情が巡って溢れ出しちゃって泣きわめいた。
春はね、どこか鈴に似てるんだよ。鈴にはなかったものが春にはある気がするんだよ。
それでね、春」
奏汰が俺に目を合わせる。
目元に水が溜まっているように、みずみずしい瞳を揺らす奏汰が綺麗に見える。
奏汰が言葉を発した瞬間、奏汰の目から何かが落ちるのを俺は見た。
「俺はっ・・・」
流れ落ちるそれを俺の目は追いかける。
それはとても綺麗に華麗にガラステーブルへと着地し、崩れるようにして飛び散る。
窓から入る夕日がそれを照らし
何よりも美しいものになる。
こんなに美しいものはあるだろうか、と心は既に動揺を隠しきれていない。
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