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僕達の嘘
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まるで二人だけの空間みたいに。
風もなく、鳥の鳴き声さえない。
心臓の音さえ聞こえてしまうのではないかというくらい、何一つ音がなかった。
ようやく口を開いたと思えば、何かを察したように苦しそうな顔をしながら、口を閉じた。
その光景を見た彼は少し微笑みながら相手同様苦しい顔をしていた。
目の奥に映っている相手をこんなにも悩ませてしまったと、後悔してるのであろうか。
視線も合わせられないまま時だけが進んでいく。
耳を澄ませば二つの息が交互に音を重ねていく。
すぅ、すぅと。
恥ずかしさを持てば次第に呼吸をすることすら困難になってしまう。
小さな風が二人の髪の毛を揺らす。
下を見つめればほんのり赤に染まった手が見える。
指と指を絡めながら手のひらに温かさを保つようにした。
カァカァと、ようやく音が戻ってきたように。
「もう、帰ろう山崎くん」
見上げればにこりと笑う彩月の姿があった。
薄茶色の高値の椅子を引き、あははと小さな声で笑いながら屋上のドアをゆっくり引いた。
「来ないの? 」
首をこてんと横に倒しまた笑顔で問いかけた。
ようやく開かれた口は、まるで接着剤でも付けられているように硬く重かった。
「…お前は……」
言葉を紡ぎたかったはずなのに。それでさえも神様は邪魔するというのか。
次第に薄れていく記憶に、最後に浮かんだのはあの人の顔だった。
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