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イケメン教師、麻薬のような恋に誘われる
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「何を今さら」
振り向いた校長の顔は、驚きに満ちていた。目を見開いて、小坂の顔を見返した。
校長は、窓のそばにたたずんだまま相好を崩した。
「君はおかしなことを言うね」
校長は、小坂の方に歩み寄ってきた。
「君のことを好きでなかったら、昨日のようなことをするわけがないじゃないか」
校長は、ソファに腰掛けている小坂の足もとに跪いた。クリームで磨かれ手入れされ、しっとりと輝く校長の黒い革靴のつま先に力が入って甲の部分に皺が寄り、キュッと小さく軋んで鳴った。
校長の片手は、黒い革のシートに添えられていた。
「君は、ああいうプレイが、好きなんだろう?」
校長は、小坂の顔を下から見上げて言った。
小坂の顔が熱くなった。
「悪のりが過ぎたとは思っている。君は、怒っているのか?」
校長が聞いた。
「怒ってますよ」
小坂は、校長をにらんだ。
「昨日、引っぱたかれたものな」
校長は豪快に笑った。
小坂は、唇をぎゅっと引き結んだ。
小坂が、いっしょになって笑わないのを案じたように、校長は、再び小坂の顔をのぞきこんだ。
「そうか、君は、ほんとうに、嫌だったんだね?」
「嫌……」
窓の外で真っ赤なコクリコがいっせいに首を揺らした。
「君も雛罌粟、我も雛罌粟……」
一面に雛罌粟の咲き乱れる草原が、小坂の脳裡に広がった。ザワザワと風が雛罌粟を揺らし丘を吹きすぎていく。
「coquelicot……ギリシャ神話の女神は罌粟の花で心を慰めていました……」
小坂は心を漂わせた。小坂の手は、力なく肘掛けに横たわっていた。
校長が、小坂の手を取った。
「阿片……。麻薬のような恋は……嫌か?」
「嫌……じゃない」
校長の手のひらに乗せられた、死人のような自分の手に、小坂は定まらぬ視線を落とした。
校長は、皇女にするように恭しく、小坂の手をおしいただいて、小坂の指先に接吻した。
「指先へのキスは賞賛のキス」
手をゆだねたままの小坂に校長は言った。
小坂は、微かに頷いた。
小坂のスーツとワイシャツの袖を押し上げて校長は小坂の手首に接吻した。
「う……」
黙っているのが苦しいほどに、濃密な感情と欲望が小坂の胸にこみあげた。
「手首へのキスは、欲望のキス」
小坂は頷いた。
「そんな切ない目で見ないでくれ。君のそのまなざしは、私に火をつける」
校長が訴えた。
小坂はソファの背に倒れこんだ。
校長が、小坂の横に座った。
「嫌では、ないんだね?」
片手で顔を隠している小坂に、校長は聞いた。
小坂は、小さく頷いた。
「僕は、ずっと、不安だったんです」
「そうだったのか」
校長が小坂の肩を抱いた。
「僕は……つらいんです」
小坂は、がくりと首を仰け反らせ、くずおれた。
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