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イケメン教師、調教師との別れ
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「愛出人だって、高校生みたいな顔して、神崎に抱かれたんだろう?」
麓戸に言われて、小坂は、恥ずかしさにうつむいた。
「校長と、そんなプレイをしてるんだろう」
「してません……」
「昔は教師と生徒、今は上司と部下か。どっちにしても、禁断だな」
麓戸は、ため息をついた。
「神崎先生は、麓戸さんの言うような人じゃありません。立派な先生でした」
小坂は神崎先生をかばった。
「生徒に二人も死なれて、さすがに反省したんだろう」
麓戸は、小坂の心をいたぶるように言った。
「だけど、内心、愛出人を抱きたくて、たまらなかったんだろうな」
麓戸が、皮肉な笑みを浮かべた。
「そんなことは、ありません」
小坂は答えた。もし、そんな素振りの片鱗でもあったなら、小坂は、それほど傷つかなかっただろう。
「そんなことは、大ありさ。愛出人は、わかってないな」
麓戸は、声をたてて笑った。
「だから、今、校長は、小坂のことを、夢中で抱くんだろう」
小坂は、校長室での行為を思い出し、身体を熱くした。
「よかったじゃないか」
麓戸が小坂の肩を抱いた。
「あいつと、そうなって、嬉しかったんだろう?」
嬉しい? 嬉しいと思っていいのだろうか。校長には妻子がいるし、自分には、麓戸という特殊な関係のパートナーがいる。なのに、嬉しいと感じてしまって、いいのだろうか。
「くそうっ……!」
麓戸は、テーブルを叩いた。
小坂は、身をすくめた。
「麓戸さん……ごめんなさい」
小坂は、とっさに謝った。
「神崎め……。また、俺を邪魔しやがって」
麓戸は、感情を制御できないように、立ち上がり、テーブルの上の黒い革製の鞭を手に取ると、自分の手のひらに思いきり叩きつけながら、部屋の中を歩き回った。
麓戸が鞭を振りあげ、振りおろすたびに、鞭は空を切って唸った。
その鞭が、掌に叩きつけられるたびにピシャリと音がして、麓戸は顔を歪めた。自らに鞭をふるう鞭打ち行者のように麓戸は自らをいためつけた。
やめてください……見かねて、小坂が口を開こうとしたとき、麓戸は、ばん、と鞭を手にした片手をテーブルについた。
うなだれた麓戸は、荒い息をしていた。力まかせに鞭をふるい自らの身体に叩きつけていたせいで、いつも整髪剤でぴたりとかためられていた麓戸の髪が、ざんばらになっていた。
麓戸の身体の向こうには、窓硝子の薄緑色の桟が、十字のように見え、薄明かりに照らされている薄白の街が広がっていた。
引き上げ窓の窓硝子が、風でカタカタ鳴った。
窓のそばの常緑樹の丸い緑色の葉が枝とともにざわめき、建物にからんだ蔦が、窓の近くでふるふると震えていた。
テーブルに片手をついたまま、麓戸は振り返った。
「愛出人、お前は、校長を選ぶのか?」
小坂は、答えられなかった。
答えられない小坂のもとに、麓戸は近寄ってきた。
麓戸は、小坂のえり首をつかんで揺さぶった。
「ここに、今日来たということは、俺を選んだ、ということだよな?」
小坂は、麓戸の激しい視線を受けとめることができなかった。
選ばなくては、いけないのだろうか。
小坂は、麓戸を見つめ返すことができなかった。
麓戸には、奴隷という名の愛人が幾人もいる。
小坂は、麓戸から目をそらした。
校長には奥さんがいる。なのに、自分だけ、なぜ選ばなければいけないのか?
「愛出人、愛してるよ」
麓戸が、小坂の腕をとって、耳元に唇を寄せ、ささやきかけた。
小坂は、麓戸の腕を静かに払いのけた。
帰ろうとする小坂の手首を、麓戸の手が強くつかんで引きとめた。
「俺を、選べ」
振り返った小坂の目を、麓戸の視線が、捕らえた。
小坂は、目を伏せた。
麓戸が、
「待っているよ」
と、小坂の肩に手をかけた。
「わかりました……」
小坂は、うつむいたまま答えた。
麓戸は、それ以上、もう、何も言わなかった。
小坂は、店を出た。
言えなかった。別れの言葉を。でも、小坂は、もう、ここに来るつもりは、なかった。
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