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クッカーズハイ
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「う、マッズ」
まさしく苦々しい!と言う顔をして、敬吾が呻いた。
「へ?」
「このビール。なんかすげぇ癖強いー」
「えービールって味に種類あるんですか!俺全然飲まないんで、全部スーパードゥラーイなんだと思ってました」
「あーうん大体はそうなんだけどー……なんか日本がスッキリばっかり過ぎるとは聞くなー、ほんとは味を楽しむもんなんだと」
「へーっ……」
「でも俺には早いわこれ……ふっつーのでいい。あと一本貰ったんだけど飲む気しねえわ、でも捨てるのもな」
敬吾はものを無駄にする方ではない。
食べ物、飲み物となればなおさら。
調理する人間にも敬意を払ってくれるのも、逸としては嬉しいところだった。
その敬吾が捨てるとまで口にしているのを聞いて、逸は心底驚いた。
「そんなに?珍しいですね、じゃあビール煮にでもしちゃいます?」
「なんだそれ?」
「手羽元とかスペアリブとかをビールで煮るんです」
「……………えぇ……」
敬吾は怪訝そうに逸を見やり、見事に口元を引きつらせた。
「いやいや美味しいらしいんですよ、ビールのおかげで肉柔らかくなるとかで」
「えー……ほんとマズイぞ?これ……お前も酒ダメだから味見できないだろ」
「アルコールが飛べば大丈夫ですよ、もうどうにもなんなくなったらにんにくで全部消しちゃいましょう!やばいちょっと楽しくなってきた」
「お前のクッキングハイ何なんだよ………」
やたらうきうきし始めた逸に促され、半ば無理やり買い出しへと出ることになった。
「とりあえず玉ねぎですよねー、甘みに」
「うん」
「じゃ俺刻むんで敬吾さんスペアリブ焼いてー」
「脂すげぇ」
「その脂で玉ねぎ炒めるんで、焼けたら鍋に肉移動して下さいー」
「あーなるほどな」
よくもまあ、初めて作る料理でこうも段取り良くできるものだ。
感心しながらも、敬吾は綺麗に焼きめのついた骨付き肉を逸の部屋から引っ張り出してきた大鍋へと移していく。
意外と重い上取っ掛かりのない形をしているので苦戦するが、空になりきらないフライパンには容赦なく玉ねぎが投入され始める。
「うおぉ待て待て」
「はいはい行った行った。んじゃもう火ぃ点けちゃって、ビール投入です」
「おう……」
飲みかけのビールに火が入ると面白いように泡立って、まるで理科の実験でもしているような気分だ。
そこへ、炒められた玉ねぎが肉汁ごと加えられる。
その香りだけで料理らしい体裁が整うから不思議だ。
「おぉ……なんか一気に食えそうな気がしてきた」
「でもやっぱこれに塩コショウでできあがりーはキツイですよね、やっぱトマト味かなあ。あとにんにくとバジルとかで」
「あーうん、トマトだな」
「んじゃケチャップー」
言いながら逸が目分量でケチャップを絞り出す。
「敬吾さんちょっと味見てもらってもいいですか?」
「おう……」
敬吾が恐る恐るブラッディメアリーまがいのスープをすすり、無言で首を振った。
「やっぱダメか。玉ねぎ溶けたら甘くなるとは思うんですけど」
そう言いながらも逸はケチャップの追加とともにチューブのにんにくやら砂糖やら日本酒やらソースやらと適当に調味料を入れまくっている。
「おい魔女鍋みたいになってるぞ」
「味見お願いします」
「…………。ちょっと旨くなってるからこえーわ。でもまだきっつい……エグいっていうのかなあ」
「あー、でも多分それが醍醐味なんですよね?ビール煮って言うくらいだし」
「つーか、そろそろアルコールは飛んでるぞ。飲んでみ」
言われて逸も味見をするが、ほとんど敬吾と同じリアクションをした。
そしてそのまま無言で考え込む。
「これは……………果物が必要です。」
「はぁ!?」
「すげー酸っぱくて食えなかった謎のみかんありませんでしたっけ?あれ入れちゃおう」
「おいおい待て待て待てほんと薬出来上がっちゃうぞ」
「大丈夫ですよう、ちょっと敬吾さん火強くしてアク取りながら鍋見てて下さい、玉ねぎ溶かしたい」
「うーん……」
言いながらもざくざくと「謎のみかん」の皮を剥き、薄皮も除いて刻んだそれを逸がまな板から豪快に鍋に流し込んだ。
敬吾は引き潮にでも足元を撫でられている気分である。
「闇鍋かよ……」
「いや大丈夫なはず!!!次の味見はちょっと味が馴染んでからにしましょう、みかんと玉ねぎが溶けて、肉の味も出てから」
「んん……………」
その時は思いの外早く来た。
これもビールのお陰なのか、全体がまとまるのが早い。
敬吾が渋るので逸一人で味見をし、わざと表情を変えずにまた胡椒だのマスタードだの蜂蜜だのと適当に味を変えていく。
そうしてまた味見。
今度はソースだけが追加された。
そして、火を止めて、鍋に蓋。
相変わらず無表情である。
「………お、おい?」
「はい?」
「どうだったんだよ……」
「出来上がるまでナイショでーす。いったん冷ましてまた煮返したら今日のメインおかずですよ」
「うまかったのかマズかったのかだけでも言えよー!」
「そりゃもうお楽しみですよ」
「岩井」
「はい?」
「好きだ。」
「前から思ってたんすけど、敬吾さん俺の飯に愛告げてません?」
いいんですけどね!!!!!
おわり。
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