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よこしまクッキング
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本編『来ちゃった!』『再襲』をお読みになっていない方は、やや「??」となる可能性がございますーm(_ _)m
「ただいまーー」
「お帰りなさい!美咲ちゃん元気でしたー?」
「元気なんだけど相変わらずテンションは低い」
「あはは!いいなー俺も会いたかったなーー」
開口一番美咲とは、と半ば呆れ、半ば微笑ましく思いながら敬吾は荷物を下ろす。
「姉貴も絶対来いつってたけど……ほっといたってあっちからまた来るだろ。これおみやげ」
「え、なんですか?良かったのにそんなの……ありがとうございます」
使い物と言うには幾分雑多な雰囲気のビニール袋やら紙袋の束を渡しつつ、敬吾は少々疲れた顔をした。
「俺からなわけねーだろ……商店街の面々から。姉貴が……敬吾くん元気かーって聞かれたからなんか言ったらしいんだよな。そしたらこのザマ」
「え」
「まあそんなどストレートなことは言ってないって言ってたけどな。俺も後から商店街行ったけど何も声かけられなかったし」
ただやたらに「良かったな」と言われたことだけが気がかりではあるが。
幾分遠くを見ている敬吾に気づかずに、逸は難儀しながらも順に袋を覗き込んでいる。
「うわなにこれほんとに良いんですか!」
「俺中見てねーんだけど何?」
「なんか木箱に入ったナニカとか、金札米とか国産七味とか!」
「へー?」
「いや、こーゆーちょっと良い物って自分じゃ買わなくないですか?使うもんならともかく食っちゃうし」
そういった物以外にもこんもりと袋に詰め込まれたコッペパンやらジャムやら日用品なども出てきて逸は敬吾が予想した以上に喜んでいるようだった。
「お前主婦みてーだな」
「ぶっ……」
微笑ましく思って言ったのだったが逸はがくりと床に腕をつく。
「あれ?ごめん」
「いいっすよ別に……家事嫌いじゃないし……今日のごはんは何がいいですか……」
「……………んー あ、じゃあオムライス」
「ここにあるもんは使わないんですね……」
「ああそっか、じゃあナポリタンで」
「了解です、生パスタって足早そうですしね。あとこの鶏ももと野菜焼きましょうか」
とは言え時間はまだ早いので食材を仕舞いつつ、敬吾は携帯に収めてきた美咲の動画を見せてやる。
「美咲ちゃんも可愛いんですけどそれあやしてる敬吾さんが可愛すぎてちょっと集中できないんですが」などと宣うので逸は何度かどつかれた。
「これはあれですか、ズッキーニとか言うやつですか」
「なのか?知らない」
「よく輪切りにして焼いて食ってますよね。網の焼きめとか付いたら雰囲気出るんでしょうけど……なんだこれいいのかなこれで……」
逸は不穏気だが、敬吾が見るにはそれなりに料理に見えるから不思議だ。
もう一方のコンロではナポリタンが出来上がりそうで、鳥肉もついさっき焼き上がったばかりである。
よくもまあこう簡単に同時進行できるものだと敬吾は感心していた。
「これ持ってっていーのか?」
「あ、はい!お願いします」
と言って敬吾が少し離れた隙に、付け合せの野菜もナポリタンも出来上がっていた。
腹が寂しかった時のためにコッペパンも取り出されている。
「うわなにこれむちむちしてる。うまいっすねーー」
「うん……」
「敬吾さん?」
フォークの先を唇に挟んだまま、敬吾は難しい顔をしていた。
口に合わなかっただろうか。
「……これ何か入ってる?」
「え、なんか変な味しますか?」
「いやそうじゃなくて、うまいと思って」
「生パスタだからですかね」
敬吾が味の違いに気づくとは珍しい、と逸は瞬いた。
「……や、昨日実家でオムライスだったんだけどさ。お前のと味違うなと思って」
「ほ、ほう……?」
どう受け取っていいか分からずに逸は首を傾げる。
「うちのも別にまずいわけではないんだけど」
こっそりと安堵の息を漏らし、逸は笑う。
「そういうことですか、そりゃねー、俺は気合が違うんですー、お母さんだってそりゃ愛情いっぱいだとは思いますけど、料理だけにかまけてはいられないでしょうし」
「気合?」
「そーですよ、やましー気持ち詰め込みまくって作ってんですから」
「っぶ」
咽る敬吾を尻目に逸は鶏肉にフォークを刺した。
「鶏肉の皮一つ取ったって、敬吾さんは柔らかいのよりカリカリの食べた方が可愛い顔します。」
「お前っ………」
「ああ、だから今日オムライスって言ってたんですね。何が違うのか比べたかったんだ」
「お前なー!」
「明日作りましょうか、オムライスも敬吾さん可愛い顔するしいいですよ」
「話を聞け!気持ちが悪い!!そんなもんで味変わるとか気味悪くてしょーがねぇだろ!!!」
敬吾が投げつけたリモコンをなんとかキャッチして逸が笑う。
「そりゃ隠し味だってちゃんと入ってますよ!」
「………だよな」
まさかとは思いつつも安心したらしい顔をして敬吾はやっと食事に戻った。
やはり違うと思うのだ。実家の食事はもちろん懐かしくて安心する味ではあるのだが、それとはまたベクトルが違う。
やましい云々は抜きにして。
「何が入ってんの結局」
「内緒です」
「はぁ?」
「ちゃんと考えるか味わうかしてくださーい」
俺のやましい気持ちを、と思ったが流石に口に出すのはやめておいた。
「えーだって……作る時ほとんど見てただろ俺」
「入れるのなんか一瞬ですもん」
「ナポリタンとオムライスで方向性もなんか違うし」
「そりゃ違うもの入ってますもん」
「はぁ!?」
「えぇ!?こっちがはぁですよ!味之素的な物だとでも思ってたんですか!?」
「思ってた」
「マジっすか」
これは想像以上だったと逸は思った。
が、料理にーーというか敬吾にーーかける自分のやましい情熱のほうが異常なのだろうか。
「ちゃんとー、これはこーしたらもっとうまいかなーとか考えてるんですーー。」
「そ……そう、か」
今度は半ば感心したようにそう言うと、敬吾は何かに気づいた顔をした。
「そう言えば双子に作ってたオムライスも味違った」
「あれ?気づいてるじゃないですか」
「あれはやっぱ子供向けにってことなんだ」
「というほどのもんでもないですけどね、あれはほとんどケチャップだけのただのオムライスですし」
「へー…………」
今度は本心感心したように、敬吾が肩から力を抜く。
「敬吾さん?」
「………いや。お前すげーな」
「え」
おわり。
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