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ゆたんぽ
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逸の携帯電話がメッセージの着信を告げる。
唯一の人物のために設定した着信音は、待ち侘びすぎて最初の音が鳴る前のノイズだけでもう聞き留めてしまう。
〈今部屋にいる?〉
性格を見事に表した、簡潔な文面。
〈いますよ!〉
即時行動で返事を送り、一体何の用事だろうとそのまま待っていると。
数分後受信を知らせるアイコンが現れた。
逸の首筋がぴんと伸びる。
〈行っていいか?〉
〈もちろん!〉
何事だろう、滅多にあることではない。
逸はきびきびと立ち上がって電気ケトルに水を入れた。すぐにスイッチを入れ、それが微かな音を立て始めた頃。
チャイムではなく控えめなノックが来客を告げた。
一応スコープを覗くがーーもちろん待ち人その人であった。
「いらっしゃいっ」
「おう」
「どうしたんですか?珍しい」
「寝かして」
「え?」
眠たげに顔を擦ってみたり振り返って施錠をしてみたり、敬吾はなんだかんだと逸の方を見ない。
これが照れているのだとしたら、ーーそういう意味か?頭の中に花が散り始める。
「いやもー、寒くてさ……布団まだ干してねーから被っても余計寒くて」
「ああ……」
意識して敬吾の顔を覗き込むと。
その目は半分閉じていて、ごくごく単純に眠たげだった。
これはーー本心、暖を求めているだけか。
頭の中は夜を迎えた朝顔のように蕾んでしまっていたが、微笑ましくて逸は笑ってしまっていた。
眠気に勝てずよろけた敬吾を支えてやりながら、どさくさに紛れて髪と額とを撫でる。
「……ベッド入ってていいですよ、俺も寝るとこでした」
「んー、どうも……」
歯を磨いてからベッドへ向かうと、敬吾は妙に端に小さく丸まっていた。
一応こちらを向いてはいるが。
それが敬吾なだけに、そこに甘さは感じられない。礼儀のようなものだろうか。
「……敬吾さん、そんな端っこじゃ背中冷えますよ」
布団から僅かに出ている目が不服そうに逸を見上げる。ーーがそれは照れ隠しだと逸も読めるようになってきていた。
自分も布団に入りながら有無を言わさず抱き寄せると、敬吾の眉間の皺も解ける。
「うわ……お前あったけーな……」
「風呂入ったばっかですからね」
「んん」
逸の体温がよほど気に入ったのか、らしくもなく敬吾はその背中に腕を回した。
(うおー……)
どうしようもなく嬉しくて、逸は敬吾の髪に顔を擦り寄せる。
今なら少しは調子に乗ってもいいだろうか。
「……お代は後で請求しますからねー……」
「おう……焼き肉でもしゃぶしゃぶでもなんでもどーぞ……」
「いやそーゆーんじゃないっす」
「……………」
「……………おやすみなさい」
「……………………」
「………………」
暗くなった部屋の中で、電気ケトルだけが不機嫌そうに冷え始めの湯気を上げていた。
おわり。
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