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怒涛の1日目
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「…っ! いいから離れろッ!!」
ガツンと肩に衝撃が走り、かがんだ状態だった俺は不意をつかれて尻もちをついた。
こんな風に拒否されるのは久しぶりで、少し油断していた。
肩をどつかれただけで尻もちをついた自分がみっともなくて、不満たらたらで相手を見上げる。
「おい…っ」
「…あ、ごめ……おれ…」
コケると思っていなかったのか、結弦は自分が殴られたような顔をしていた。
そんな顔をされたらかえってこっちの方が戸惑う。
「あ、いや……悪かったな。キモかったよな」
「ち、ちがう…っ」
「別にいいぜ。大したことじゃねーし。お前も余裕なかっただろうし」
「ちがう…ちがうっ! そうじゃなくて……そうじゃなくてっ」
パシッと音がし、手の甲があたたかいもので包まれた。
驚いて結弦を見れば、顔を真っ赤にさせた結弦が俺を睨みつけていた。
「びっくりした、だけ……だから」
「………」
「その…俺が、獅子原に冷たい態度取ったのに……獅子原が佐倉ばっか構うのが……その……」
「………ゆ、ゆずる?」
「だ、だからっ!! その、……嬉しい、から。だから……あ、ありがと」
目をパチクリとさせた。
きゅう、と握られた手にではない。
結弦が、あのツンケンした結弦が、俺の目を見て、顔を真っ赤にさせながら『嬉しい』『ありがと』と言ったことにだ。
…しかも今、とんでもないこと言わなかったか?
胸がギュ、と握られたような気がした。
次の瞬間結弦の腕をひいていた。
「……え」
「…………」
「…し、しはら?」
「よかった。……俺、嫌われてなかった…っ」
心からの言葉だった。
胸に突っかかっていたものがようやく取れたようで、すっきりした気持ちでいっぱいだった。
東たちの前だとか、こんな道ばたでとか、そんなの全部が全部どうでもいい。
思えばあの日からずっと不安だった。
あの、2人きりの部室のときから。
ずっと不安で不安で、平然と歩く後ろ姿にどんな顔をすればいいのか分からなかった。
なんでこんなに自分が不安なのかも分からなくて、自問自答で眠れない日だってあった。
だけどいつだって結弦は変わらず凛としていて。
少し、憧れていたのかもしれない。
少し、嫌われたくないと思ったかもしれない。
この気持ちが何なのかはまだ分からないけど、今の結弦の台詞で、何かが変わった気がした。
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