アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
河川の上流にて最後の言葉を
-
「やっぱり、ここだったんですね」
「あら、どうして分かったのかしら」
バルバロッサの北西、ラヴァニアの北東に位置する山脈にリリアン=ブリタニカはいた。
なぜここに逃げたのか。
いや、彼女は元々ここを目指して来る予定だったのかもしれない。
「貴女の手記を読みました」
オレの言葉に、全てを悟った様子の彼女。
「残念ね。もう手遅れよ」
彼女は手前を流れる斜面が急な河川を見てほくそ笑む。
「この川の上流で毒物が流されたら、下流に住む庶民はどうなるでしょうねえ」
彼女の手から、カラになった薬瓶が地面に転がり落ちる。
中からは、異臭が立ち込めた。
しかし、一枚読んでいたのはオレも同じ。
「水に色を付けさせて貰いました」
恐らく彼女はこの河川に猛毒を流したのだ。
川はラヴァニア全土の水へと繋がる。
最悪、彼女は民衆を巻き込む。
だから…その絶好の場所に、川の上流を選ぶと踏んでいた。
そこでジャックに予め頼んでいたのは、毒薬に反応して、赤色に変色する薬を中流付近から流してもらうこと。
まさか、川の水が奇妙な色をしていたら、誰も好んで飲まないだろう。
必要最低限の粗処置だ。
「なんだ、知ってたのね。意地の悪い坊や」
王女は肩を落とす。そして地面に膝をついた。
もう、物理的に抵抗は出来ない。
「貴女の復讐相手は、王家の人だけのはずだ。何故、罪のない国民に手を出そうとしたのですか」
オレは一歩ずつ、王女リリアン=ブリタニカへ近づく。
彼女はオレの顔を睨みつけた。
「見捨てたからよ、私を。彼らは私を見て見ぬ振りをした…同罪じゃない」
空気が張り詰める。
「そうかもしれない」
唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。
「でも、貴方にそんなことして貰いたくなかった」
それは兼ねてから、オレの本心だった。
リンの母親として。
身近な人だから思う、親しみ。
貴女の行為は、リンを苦しめ続けた。
「うるさい。アンタに何が分かるのよ!」
オレの言葉を切って捨てる彼女。
「貴女のリンに時より見せた、優しい眼差しはなんだったんですか!」
本物の母親は知らない。
あの人は、オレを産んで直ぐ無くなったから。
だから、いたらどんなだっただろうと何度も考えたことがある。
リリアン=ブリタニカ。
ふとそんな時、彼女のリンを見る視線が母親の目だと気付いた。
危なっかしい事をやってのけるリン。
それを側から、見守る彼女。
「貴女はちゃんと大事に想う人がいるじゃないですか!」
目から、涙が溢れた。
オレは自分の中から溢れてくる感情を抑えきれなかったから。
運命に翻弄された悲劇の王女、リリアン=ブリタニカ。
生まれた時から、自由を奪われたリン。
戦争で両親を失ったハルト。
そして……記憶に残っている、兄の死。
「それは…」
彼女が顔を上げて、オレの目を見る。
「もう……辞めましょうよ」
オレは涙を堪えて、声を上げた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
69 / 77