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知られたくない傷
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「恋愛対象じゃないならなんで……、」
和慎君の声が、静かで暗い階段に響き渡る。
なんで?
そんなの決まっているじゃないか。
無理矢理だよ。
…なんて言えるわけもない。
いつもなら上手く嘘をついてやりきれるところなのに。
今は何故か、どうしてもそれが出来なかった。
「……それ、答えなきゃダメかな」
自分でも驚く程に、弱々しい声を出してしまって。
思わず彼から視線を逸らした。
小さく息をついて、静かに呼吸を整える。
「やめようよ、この話。……和慎君には普通に幸せな生活、しててほしいから」
僕の泥沼のような部分に踏み入ったら、彼はそれに「整えて固めてやるから」って言ってしまうような人だ。
きっとこれを知ったら、もう後戻りも出来ず、這い上がる岸すらない沼に一緒に溺れてしまう。
彼を巻き込むのが…………怖い。
「関係ないよ、本当に。…………じゃあ僕、行くから...」
お願い、来ないで。
これ以上関わらなくていい。
返事なんて聞きたくない。
ただ僕を嫌いになって、静かに離れていって。
そんな思いを込めながら、僕は廊下を走り始めていた。
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