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昼頃、岡谷にお礼を言って家を出た。
近くで電車の音が聞こえるので線路は近そうだ。駅まで送ると言われたけれど、線路沿いを歩いて駅に向かうと言って断った。
一人になりたいわけではなかった。
けれど、誰かと一緒にいても佐々木のことを考えてしまう頭は止まらない。それは分かりきったことで、それが申し訳なくて一人になるのを選んだ。
(明日、帰ってくるんだな)
佐々木の合宿は明日までだったはず。
いつもなら、浮気のあとの数週間は甘い甘い日を過ごしていたけれど。
忘れた頃に身を裂かれていたけれど。
今回はどうなるだろう。前回の痛みを忘れないうちに、その日がくればいい。
電車を降りて、アパートまでの道を歩く。駅から近いという理由で気に入ったそのアパートは、1階しか空いていなくて。
けれど人通りも多いし大丈夫だろうと、佐々木の反対を受けながらも、そのアパートを選んだ。
晴の通う学校は高校までは全寮制で、大学から一人暮らしを始めた。
最初は、寮とは違って一人が当たり前の環境に戸惑いもあったけれど、すぐに慣れた。一人の気楽さもわかった。だから今は一人暮らしを楽しんでもいる。
アパートが見えてきたので、晴は鍵を取り出しながら歩く。近づくにつれ、見覚えのある姿が晴の部屋の前に立っていることに気付いた。
「佐々木?」
自分にしか聞こえない声量だと晴は思ったけれど、彼はパッと顔をあげた。
「晴!」
晴に気付いた佐々木は走り寄ってきた。ぼさぼさの髪、青白い顔で晴に詰め寄る佐々木に、晴は少しだけ戸惑う。
「佐々木、帰るの明日じゃ…」
「そうだけど!晴がなかなか電話に出ないから…始発で戻って来た」
「…」
合宿所は、そんなに近くなかった気がする。サークルが貸し切ったバスで2,3時間。そう聞いた。
「ちょっと飲んでただけだよ、心配性だな、佐々木は」
「だって」
「でも、1日早く佐々木に会えて、うれしい」
晴は彼の素直な気持ちでそう言った。そしてこの言葉が、佐々木の不安を拭ってくれることを祈って。
「中に入って待っててくれてもよかったのに」
「一刻も早く会いたかった、晴…」
晴が鍵を開けると、佐々木はするりと中に入って、晴の腕をつかみ中に引き入れる。そして力強く抱きしめた。
「ちょ、」
「なあ、岡谷に会ったの?」
「…会ったよ、元気そうだった。佐々木とは相変わらず仲良いの?ってからかわれたよ。そんなに俺、幸せオーラ出してたかな」
「そっか、それなら、いい」
するすると嘘をつける自分に、晴自身驚いていた。けれど、少しでも彼の不安をなくさないと。愚かな彼はきっとまた繰り返す。
「すきだよ、」
「俺も好きだよ、晴」
別離まで、あと。
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