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コンクールの大悲劇-2
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誰も想像すらしなかった『余程の事』を引き起こすシナリオは前日の晩に既にスタートしていた。
日付が変わる前には布団に入って万全の状態で本番を迎える筈が、久々に地元へ帰ってきた高校時代の仲間との飲み会が想像以上に盛り上がってしまったのだ。
明日の予定があるんだから早く帰らなければと頭の中で分かっていながらも楽しい食事や飲みの席を抜けられないという経験は誰にも一度や二度はある筈だ。
昨夜の漣人もそんなあと少しあと少しが積み重なって、帰ってきたのは朝の4時半。
シャワーを浴びて漸くベッドに入った時には5時を回って東の空が明るんで来ていた。
睡眠不足の上、午前中に予定されていたリハーサルにも出ずぶっつけ本番で臨んだのが運の尽きだった。
会場に着いて、演奏順の載ったパンフレットを開くと、何と初中級部門の参加者は例年の5倍以上。
サマーセミナーを目当てに、昔ピアノを習っていたという学生が大量に参戦したのだ。
ピアノをやめて久しいといえど、昔取った杵柄は有効でどの学生もきっちりと弾きこなしてくる。
そんな会場の雰囲気に呑まれた漣人は、まさかのオクターブ上の音で弾き始めてしまい、比較的早い段階で鍵盤が足りなくなることに気付いてからは総崩れ。
それでも、曲を最後まで惰性で弾ききる程には練習を積んで来ていた。
(はぁ……)
溜め息だけは次から次へと溢れだしてくる。
次の奏者が演奏を終えて出て来る気配を感じて、思わず角を曲がって身を潜めた。
習慣というのは不思議なもので、どこをどうやって歩いて来たかも覚えていないのに、気が付けばサークルの部室の前に立っていた。
今回のコンクールは、漣人の通う大学の講堂で開催されたため、出場したメンバーは結果発表まてピアノサークルの部室で待機しているのだ。
もっとも殆どの部員は昨日の中級部門や上級部門に出たので、今日来ているのは漣人を含めて3人だけ。
(先輩たちが、演奏をチェックしに来てませんように。もし聞かれてても怒られないように神様よろしくお願いします)
おばあちゃんが大事にお祀りしている神様に頭の中で手を合わせてから部室のドアに手を掛けた。
「お帰りー」
「お疲れ様です。あれ? 凪先輩ひとりですか? 出水先輩は?」
中に居たのは、部長の野々宮凪ひとりだけだった。もう一人の方には正直今日は(むしろ半永久的に)お目にかかりたくなかったのでホッとした。
「ああ、律耶はお昼食べに行ってる。午後から本番だし。漣人は? もう食べた?」
「いや、食欲ないんで」
「そっか」
肩まで届くアーモンド色の髪に縁取られるのは、いつもと寸分も違わないやさしい表情。
(この様子じゃ演奏聞かれてないよなー。よっしゃー)
おばあちゃんの神棚に朝晩手を合わせたお陰かもしれない。
ピンチは切り抜けたようでひとまずホッと胸を撫で下ろした。
数時間後に控えている結果発表で落選したことは知られてしまうけれども、あのとんでもない演奏をリアルタイムで聞かれるなんて羞恥プレイにも程がある。
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