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鬼軍曹のおうち-1
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凪の乗ったオーストリア行きの飛行機を見送る漣人の心は地球の反対側に届きそうなぐらいに沈んでいた。
コンクールで大失態をやらかした時も大概落ち込んだが、今回の沈みようは前回とは比べ物にならない。
(凪先輩……)
機体が描く長い飛行機雲が消えてしまっても、窓ガラスにピッタリと張り付いたまま石になってしまったように、もうかれこれ15分も固まっている。
律耶による猛稽古はさっそく今日から開始されるので嫌でも一緒に帰らなければならない。
背後から不機嫌そうな視線をビンビンと感じるが、振り向いてしまったら何か悪い事が起こるような気がして振り向きたくなかった。
「もう気が済んだか。帰るぞ」
石化している漣人についに痺れを切らしたのか、うんざりしたような声が頭上から降ってきた。
これ以上先伸ばしには出来ないと、意を決して振り向くその先には地獄の赤鬼が……もとい、恐い恐い恐~い先輩が。
「さっさと来い。置いていかれたいのか」
(はい、出来ることなら置いていっていただきたいです。凪先輩が帰ってくるまでここに居ます)
なんて本音を口にすることも出来ず、後ろを振り向かずにスタスタ歩いていく後ろ姿を急いで追いかける。
(凪先輩……何で俺を置いていってしまったんですか?)
これから1ヶ月以上も続くであろう地獄の日々を思うと、このまま氷のように溶けてしまいたくなった。
お互い、必要最低限の言葉しか交わさないまま高速バスのターミナルまで歩いてくるとちょうど漣人たちの乗るバスが入って来るところだった。
空いていれば二人掛けのシートをそれぞれで使えるのに、混んでいるのでそうはいかず渋々律耶の隣に腰を下ろした。
ただ、鬼軍曹さまは両耳にイヤホンを突っ込んで車窓の風景に集中してくれているので、少しは安心して過ごせそうだ。
(高速バス、久しぶりだな)
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