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鬼軍曹のおうち-6
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「次は自由曲か。何を選んだ」
課題曲と初見演奏の稽古が終わって残すは自由曲だけとなった。
「これです」
漣人の受けるグレードでは自由曲を3曲用意していくことになっている。
漣人が選んだのは『エリーゼのために』『紡ぎ歌』そして、コンクールでも演奏した『乙女の祈り』。
「エルメンライヒか。今回のグレードには易しすぎるんじゃないのか?」
紡ぎ歌の楽譜を摘まみ上げて律耶が不服そうな声を上げた。
「え? 凪先輩は『弾ける中で好きな曲選んだらいいよ』って」
律耶の眉間の皺が一瞬不愉快そうに深くなったが、すぐ元の表情に戻って楽譜を突き返された。
「ふん。まあいい、コンクールの曲から弾いてみろ」
乙女の祈りは今までで一番引き込んだ曲だからか、一度も叩かれる事なく何とか最後まで弾ききることができた。
「出来るじゃないか」
(デキルジャナイカ?)
あれこれ注意を受けるときと全く表情を変えずに言うもんだから、一瞬何を言われたか分からず、ポカンと口を開けてしまった。
褒められたことに気づいて何か言おうとしたが、次の曲を弾くように促す声に遮られてしまった。
エリーゼは、中間部分で速度が落ちる事と最後の『ラドミ』の連続上昇でチェックが入った。
紡ぎ歌は左手のスタッカートを歯切れよく弾くこと、強弱をしっかり付けてダラダラとした演奏にならないように弾く事を指摘された。
ようやくレッスンが終わったのは夜の8時半。夏でも流石にこの時間となれば外はすでに真っ暗だ。
「ありがとうございました」
お礼を述べて帰ろうとする漣人の足元はフラフラになっていた。
酷使された指や手首が痛いのは言うまでもないけど、ずっと座っていたおかげでとにかく腰が痛い。
そんな漣人を横目でチラッと見て律耶は意地悪そうな笑みを浮かべる。
「今日は初日だからまだ序の口だ。次からは本格的にビシビシいくからな」
(はぁっ? これが序の口?)
夏休みが終わった時に自分が心身ともに行き着くであろう境地を案じると、今夜は眠れそうになかった。
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