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雷の夜に-1
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恐怖のレッスン8日目。その日、律耶が昼間は用事があるというので夜7時からの稽古になった。
朝からずっと良い天気だったが、レッスンが始まった頃から積乱雲がもくもくと発達しはじめ、暫くすると空を真っ暗に覆い隠してしまった。
課題曲を弾き終わったところで外に目を向けると、大粒の雨がガラスを伝っていくのが見えた。
(今日は傘なんて持ってきてないのに。帰るまでに止んでくれるといいけど)
課題曲の次に弾くように指示されたのは乙女の祈り。
慣れている曲なのでついつい窓の外に意識が行ってしまう。
チラチラと外を見ながら曲の中間あたりまで来たところで、空を切り裂く青い光が見えると同時に『ズシャーン』と物凄い雷鳴が鳴り響いた。
「うわっ」
あまりの迫力に一瞬動作が止まってしまったが、雷よりも鬼軍曹さまが恐ろしいので慌てて演奏を再開する。
音楽の流れが途切れるので、本番では途中で止まったり弾き直したりすることは絶対にあってはならないと凪から口を酸っぱくして注意されていた。
(怒られるなー)
雷は気になるけど何とか頭の外へと追い出して最後まで弾き終え、斜め後ろを振り向いてものすごく後悔した。
(機嫌悪っ)
眉間の縦皺がいつもの5割増しだ。
そりゃあ、演奏中によそ見をしたのは悪いとは思うけど、こういう時ぐらい見逃してくれてもいいんじゃあないかと思う。
だからサークルのみんなから「血が通っていない」だとか「人間らしい情けの欠片もない」 とか「完璧超人」だなんて陰口を叩かれるんだ。
「あの……。次の曲弾いてもよろしいでしょうか?」
黙っていても気まずいので、恐る恐るお伺いを立てると、律耶は不機嫌オーラ丸出しのまま黙って頷く。
(あー、やだやだ。もーやだ、本気でやだ)
何で自分がこんなに気を遣わなきゃいけないんだろう。そもそもこんな時に雷なんか鳴り出すからいけないんだ。
ある意味全ての元凶である雷雲に八つ当たりしながら、エリーゼを弾こうと楽譜を立てたその瞬間。
――メリメリメリッ。ズシャーン。
一瞬、昼間になったかと錯覚するほど空が明るくなり、耳をつんざくような轟音が響き渡った。
近くに落ちたらしい。マンションから見える明かりという明かりが一瞬にして消えて真っ暗になった。
このマンションは幸いに停電を免れたが、次に雷が落ちたら危ないかもしれない。懐中電灯などを用意しておいた方がいいのではないだろうか。
「どうしま……すた?」
後ろを振り向いて目に入った光景に驚きすぎて言葉を噛んでしまった。
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