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ハネムーン 1 (士郎side)
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『来月の頭から一週間、休暇を取った。行き先はグアムだ。ビザは要らねェから、エスタも不要だ。パスポートだけ用意しとけ』
「は……?」
当然連絡してきたかと思ったら、何の前触れもなく突飛なことを言い出す龍之介に、思わず間抜けな返事を返してしまった。
『途中、ヤボ用で外すが、オマエは好きにしてりゃいい』
それは共に来いと言うことか……?
ドクン、ドクン、ドクン……。
否応なしに鼓動が高鳴ったが、必死に落ち着けと自分に言い聞かせた。
期待させて突き落とすのが、龍之介の十八番だ。
ぬか喜びすればその分、地獄が待っているのは目に見えていた。
「……どういうことだ?」
努めて冷静を装えば、
『ハネムーンのお誘いだろーが。……もっと素直に喜べよ』
毒のように甘い声が、耳元で嬲るようにささやいた。
「ハ……っ!?」
あまりに突拍子もない答えに、今度こそ絶句した。
『……ンだよ。ずいぶんと、つれねェなァ』
長期の休み取ンのに、コッチは寝る間も惜しんで働いてるっていうのによ、と龍之介がわざとらしく、ため息をつく。
『……触れられねェ距離に飢えてンのは、オレだけかよ』
わずかにトーンの落ちた声に、演技とわかっていてさえ、胸をえぐられた気分になる。
「……っ」
そんな訳があるかと叫びたかった。
いったいどれほどの夜を、独りで耐えてきたと思う……?
思わず拳を握りしめた。
……会いたい。
そう口にすれば崩れてしまうほど、ギリギリをひた歩いている自覚があった。
頼むからこれ以上、掻き乱さないで欲しい。
ハネムーンなどと口にされたら、期待してしまう。
たとえ闇の仕事のついでに、わずかな時間を縫って会えるだけだとしても。
誘われたら、世界の果てまでだってついていく。
深く吐息して、スマートフォンを握りしめた。
「……わかった、来月の頭からだな」
「せっかくの、バカンスだ。……水着はエロいのを用意しとけよ?」
「……っ」
「……まァ、ビーチになんざ降りれねェくれェ、抱き潰しちまうかもしンねェけどよ」
淫靡で濃密な闇の気配がたゆたい、純度の高い酒を煽った時のようにカァッと全身が熱くなる。
……酔わされる。
龍之介という、底知れない闇に。
底なしに深く、囚われていく。
通話が途切れてからもしばらくの間、低くて甘い声の余韻に、人知れず静かに震えていた。
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