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テクノロジカル-サイバースペース
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【とある静寂を好む男の場合】
人工ホログラム『幸村-YUKIMURA』。
怪訝な表情を浮かべ、私はその商品サンプルを凝視した。
誰も立ち入らないような、高層のタワーマンション。
その最上階の一室で、私は包みから出てきた円盤状の物体を見ていた。
私用で2,3日家を空けていたら郵便物が届いていて、それがその手紙と包みだった。
封筒を開けてみると、中から出てきた文章で何となく状況を察した。
つまり、封筒の内容について、それを受け取っていなかった私が送り返しの文言を垂れなかったために強制的に商品が届いたというわけだ。
迷惑にもほどがある。
「『お初にお目にかかる!某は・・・』」
「不愉快だ、すぐその愚口を閉塞させろ!」
「『へ、あ、その、申し訳ござらぬ・・・』」
フン、と一つ鼻を鳴らし、私はパソコンを起動させる。
テキストの入力を始めた私の後ろで、おずおずと動いているその存在が気になって、というより癇(かん)に障って、私はソレを睨む。
「『!あ、あの、某は・・・』」
「ホログラムだか何だか知らないが、お前は明日にでも送り返す。良いな、拒否は認可しない」
「『・・・う、了解いたした・・・』」
そのしょんぼりとした表情は組み込まれたもの《プログラム》だろう。
そう苛立ちながらキーボードを叩く。
その音に少し怯えているような気がした。
<***>
「やれ三成。ぬしも面白いものを持っておるな、ヒヒッ」
「刑部、そんな戯言をのたまうためにここに来たのか」
「いや、ただぬしも変わったのかと、そう思ったまでよ」
「・・・?」
翌日、部屋にやってきたのは私の唯一心を許した友、刑部、大谷吉継だった。
送り返そうと思いながら、結局時間がなかったために刑部が来た今までそのままにしておいたのだが、ホログラムが投影されたままであったために、昨日からずっとこのホログラムはこのままだった。
「『・・・』」
「・・・やれ、そこの小さきモノよ。ぬしの名は何という」
「刑部」
「『・・・某は幸村と申しまする。貴殿は・・・刑部殿、でござりましょうか?』」
「ヒヒッ、まあそうだ。アダナではあるがな」
その時初めてそのホログラムが幸村という名であったことを知ったのだが、それよりもあの刑部がここまで興味を示したのが意外で、私は不思議な感覚だった。
「・・・ん?ああ、この者のことか。コレは三成。これからの世を統べることになるやも知れぬ男よ」
「刑部、私のことは良い。それに天下を統べるのは秀吉様と半兵衛様のみで十二分事足りる」
「あい分かった・・・ぬしも真面目よな」
刑部はヒヒッと愉快そうに笑うと、慣れた様子で椅子に座った。
私も渋々その正面に座る。
向こうの机の上で、ホログラム・・・幸村はこちらをチラチラと伺っている。
「・・・ええい、鬱陶しい。こちらを見るな」
「『は!その、申し訳ござらぬ』」
「・・・三成、あの小さきモノも仲間に入れてやろう。それがよい」
「さっきから何を言っているんだ・・・様子がおかしいぞ」
「今まで触れたことのない存在だったのでつい、な。相手はただの光、邪魔はできぬであろう」
「それはそうだが・・・」
「『・・・』」
まるで命令を待つ忠犬のように、ソレはそこで黙ってこっちを見ている。
「それにぬしとも似ているのでな」
「・・・不愉快だ、刑部」
「いや、すまぬすまぬ口が滑った」
ヘラリと笑う姿を見て小さく嘆息する。
「貴様・・・幸村だったか?貴様、サイバーテロの類ではないだろうな」
「『さいばーてろ・・・?それは何者でござろうか』」
「・・・ヒヒッ、ヒヒヒッ。見やれ三成。相手は己が本懐も分からぬような相手よ。そう構うものでもないであろ」
私は鈍痛がする頭をおさえ、おもむろに立ち上がり、その頭痛の相手を持ち上げた。
「『む、あ、お』」
「煩い」
「そう手荒に扱ってやるな」
刑部はいたくこのモノを気に入ったらしい。
机上にあげると、ソレをずっと見て話しては笑っている。
何となく面白くなくて、でもどことなくそんな存在が気にもなって。
「・・・本当に何をしに来たんだ」
「・・・ヒヒッ。なに、つまらぬ粗用よ。気にするな」
「『・・・刑部殿は三成殿と親しいのでござりまするな』」
「まあ、な。昔からの旧い仲だ」
「刑部は私の唯一信頼を置く相手だ」
「『そうでござりまするか。某もそのようになれたら・・・いえ、申し訳ござりませぬ』」
少し、悲しそうな表情をみせたのが不思議で。
ただの人工物、プログラムと分かっているのに、ほんの少し、心が揺らいだ。
「幸村・・・ぬしも時間が経てば後には有り得ることではある・・・その時が来るのはまだ先ではあろうがな」
刑部がそういいながらその映像に触れようとする。
しかし所詮はデータ。
触れることは叶わない。
「刑部、貴様はもっと利口であったはずだ。ホログラムに触るなど、愚行だぞ」
「ヒヒ、過大な評価、痛み入るが。なに、小さな可能性に懸けてみたまでよ。もしやすれば変わるかもしれぬと、な」
「『?』」
「・・・?」
ケラケラと刑部は笑った。
「ぬしら、同じ表情を浮かべておるが」
そう言われて、私は鼻を鳴らし。
幸村はおどおどとうろたえるばかりだった。
<***>
刑部が帰ってから、私はこの小さな存在と二人きりになった。
私は刑部や崇拝する上司である秀吉様や半兵衛様以外には自分から話しかけたりすることが少ない。
孤独を好むわけではないが、物静かであることを好むのだ。
「『・・・その、三成殿。少しよろしいでござりましょうか・・・』」
控えめな申し出に、私は無言でソレを見た。
おどおどとしながら、ソレはそっと言葉を紡ぐ。
「『三成殿は、その、刑部殿は唯一の友、とおっしゃっておりましたが・・・・』」
「事実だ。私に多くの友は必要ない」
「『その、それでは、某を友と認めては下さらぬだろうか・・・』」
「・・・」
なにをのたまうのだ、コレは。
「認可しない。私に友は必要ない。下らない戯言をのたまうな」
「『も、申し訳ござらぬ・・・ 』」
本気で落ち込むような素振りを見せるから。
「・・・話し相手ぐらいには、なってやってもいい」
私にも罪悪感だとかいう甘んじた心があったらしい。
「『・・・!それは誠でござりましょうか!?』」
「私が言うのだ。何度も言わせるな」
「『う、嬉しゅうござりまする』」
本気で嬉しそうにするから。
最近の機械はこれほどまでに表情が変わるのかと。
そう思いつつ。
「『また、刑部殿がいらした時には是非一緒に語らいたいものでござりまするな!!』」
小さく口角が上がっていることなど知らず。
小さながらも、変わっていっていることなど知らず。
「・・・そうだな」
日常が色付く時など、一瞬だったのだ。
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