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テクノロジカル-サイバースペース
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【とある恋する男の場合】
「恋は良いよ!みんな恋すればいいのさ!!」
「慶次ったらーまた調子のいいこと言ってー」
「本当だよ!何なら俺に恋してみるかい?」
「もうバカ!」
大学生になってから、サークルに入るでもなく、勉学に打ち込むでもなく、学生らしいことは何一つせず、ただバイトをして、友達に囲まれて笑っている日々。
まあ、少し怠惰かもしれないけど、楽しいのだから良いと思う。
もともと親代わりだったオジの利や、まつねえちゃんとはもう会わないし、まあそれはそれで寂しかったりすることもあるけど、それでも念願の一人暮らしを始めて、面白おかしく生きていた。
そんな俺のところに人工ホログラム『幸村-YUKIMURA』なるものがやってきたのは、つい最近の話で。
「えっと、このカードをこうかな?」
プツン
「『某は幸村!貴殿のお名前は?』」
「わ!!すごい、本当に出た!え、えっと名前だっけ?俺は慶次!よろしく幸村!!」
「『慶次殿!よろしくお願い致しまする』」
現れたのは、ホログラムなんたるもの。
ペコと頭を下げる姿は小動物みたいだ。
「えーっと、幸村・・・うーん、幸ちゃん!」
「『その、幸ちゃん、というのはなんでござろうか』」
「幸村の愛称だよ。可愛いだろ?」
「『そ、某は男でござりまする故、可愛いというのは・・・』」
女の子みたいに可愛らしい容姿と動きをしているのによく言う。
「幸ちゃんはさ?恋とかしないの??」
「『・・・コイ?コイとは?』」
「え、恋知らないの!?駄目だよ、恋は知っとかなきゃ」
そういえば、言葉はどんどん会話のうちに覚えていくんだっけ?
「『も、申し訳ござらぬ・・・』」
「いいよ、別に。これから覚えていけばいいさ。俺も手伝うからさ?」
「『おお、かたじけない』」
またペコリと頭を下げる。
その頭を撫でようとして手がすり抜けるのをみて、改めてああそうだコレは映像なんだ。と理解した。
変な感じだ。
ここにいて会話をしているのに、本当は存在していないなんて。
それからは毎日話し合った。
大学終わりはいつもバイトか、それがなければ友達と駄弁って(だべって)いるのに、幸村が来てからというもの、飛ぶように帰った。
バイトで遅くなると、いつも幸村は不安そうにしている。
「今日はバイトだったんだよ」
と言うと、パァッと表情を明るくさせて、
「『お疲れ様にござりまする!』」
と、労ってくれるのだから、愛しい気持ちが湧いてくるのも仕方ないだろう。
幸村を目の前にご飯を食べながら、ニコニコ笑みを浮かべる。
・・・そういえば、このご飯も、最初はインスタントや冷食(冷凍食品)だったんだけど、幸村に言われて自炊を始めたんだっけか。
「『お身体に障りますゆえ!!何事も身体が資本!!よろしいでござりまするか!!?ジャガイモ、ニンジン、牛肉、それから―』」
「ちょ、ちょっとまってよ幸ちゃん!今用意するから!!」
そんなことがあって、今では幸ちゃんに教えてもらわなくても最低限の食事は作れるようになった。
まだまだまつねえちゃんの味には遠く及ばないけど、それでもマシなはずだ。
「幸ちゃんにも食べてもらいたいなあ」
そう零す(こぼす)と、幸村は困ったような笑顔を見せるだけだった。
「・・・なんかさ。こうしてると新婚さんみたいだね」
「しんこ・・・な、破廉恥!!」
「えー?破廉恥じゃないよ。それに、俺の親代わりのオジさんもオバさんも仲良かったんだ」
「『慶次殿の叔父上と叔母上・・・それは、その、良いことでござりまするな』」
「うん、まあね。でも幸ちゃんが見たら真っ赤になるような仲良しっぷりだったけど」
「『そ、それは』」
そういいながら、想像(?)しただけでプシュー、と真っ赤になってしまうのが可愛くて、愛しくて。
幸村にさわれないことが切なくて。
「幸ちゃん」
そっと手を伸ばしてみると、幸村はそっと小さな手を伸ばしてきた。
「!」
「『・・・その、慶次殿』」
「な、なんだい!?」
そっと赤いままの幸村が俺の手に、触れるように手を重ねながら。
「『その、胸がドキドキ波打って、息苦しいのでござりまするが、これが恋、と言うものでござりましょうか・・・』」
ああ。
のぼせそうなくらいだ。
「・・・もし、幸ちゃんが・・・幸村がそんな気持ちだったら、俺は嬉しいな」
幸村は、多分。
ホログラムとして、データとして、俺に付き合ってくれているんだろうけど。
でも、ただの映像にここまで惚れてしまっているのは、紛れもない俺自身だ。
「大好きだよ、幸ちゃん」
「『な、な、は、破廉恥ー!!!』」
自分からけしかけといて。
ポカポカ殴ってくるソレが、映像なのが本当に恨めしく思えた。
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