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蝶散
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その時だった。
「佐助・・。」
「!?」
か細い声が佐助を呼ぶ。
「旦那・・・?旦那!!」
そっと佐助は幸村を抱き寄せる。
「ごめんね、旦那。でもね、もう大丈夫だよ。」
「佐助・・・気が付いたのだ。」
「・・・何に?」
幸村はゆっくりと瞳を動かして、違うところを見る。
そして、小さく息をつくと話をつづけた。
「俺は、武田のために生きてきた。・・・そう思っていた。」
「そう、じゃないの?」
「気付いたのだ。俺が、俺が本当に守りたかったのは、武田ではなく、お主なのだと。」
「!!?」
「ずっと、共に居たかったのだ。・・・なぁ、佐助。覚えておるか。」
「・・・え?」
「いつか俺が身体を壊した時は、ずっと付きっきりで看病をせねばならないと言ったこと。」
「・・・あ、あぁ覚えてるよ?」
その時の貴方の答えも、それを聞いた時の少し苦しい気持ちも、全て。
「それを聞いた時・・・嬉しかったのだ、とても。」
「え・・・?」
「ずっと、共に居ることが出来るのだと。だが、俺は国主だ。私情では動けぬ。故に、その気持ちを押し殺したのだ。」
なんて。
なんて綺麗な顔だろう。
これが俺の仕えていた者の正体だなんて。
「だん、な・・・。」
「なあ、佐助。最近ふと思うのだ。もしあの時、俺が病床についていたら・・・そうしたら、俺たちはずっと共に居られたのだろうか。」
「―ッ!!!」
「なんて、国主失格だな、俺は。」
堪えていた涙が溢れ出す。
「ゥッ!!」
声をしゃくりあげ、佐助は涙を止めようとした。
「もう、お別れだ、佐助。」
こちらをしっかりと見て幸村は笑む。
少しでも長く、この微笑みを目に焼き付けておきたかったから。
あの日みた満ち足りたような笑顔が蘇る。
「今まで、有難う。・・・大好きだ。」
だからお願い、涙よとまれ。
「・・・旦那ッ!!!」
ゆっくりと離れてゆく体温。
時を止めた心音。
―嗚呼、滲んで(にじんで)見えないや―
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