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たとえ俺がお前に必要とされなくなる日が来ても。
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「石田・・・いえ、三成殿。来てくださって有難うございまする。すみませぬ、私事で呼び出したりなどして・・・。」
「そんなことはどうでもいい。私に話したいことがあるのか。」
「・・・少しだけ時間を下され。少し長くなるやもしれぬ故。」
「ああ。私に対して長話ができる程ならな。」
「・・・三成殿はよく人のことを見ておりますな。三成殿はお優しい性格でござるから・・・。某はそんな三成殿が好きでござった。」
「・・・。」
「ですが、某はその優しさに応えられていただろうか。何かを返せていただろうか。某はそれが悔しくて仕方ありませぬ。見返りなんて求めない其方の優しさだからこそ何かを返せたらと思っておったが、この有様。こうなるのなれば、もっと早くに動けておれたらと、日々悔やむばかりでござる。」
「何を言っているのか見当がつかんが・・・貴様が何を思ってこれを最後だと思っているのかが一番理解できん。私は、貴様に何もしてやれなかった。今からでも貴様の望むことをしてやろう。」
「何を。某は返したいのです。其方への恩を。これ以上増やさないでくだされ。これ以上・・・優しくしないでくだされ・・・。やっとついた、諦める決心が鈍るではないか・・・。」
「これは、私の恩返だ。柄にあわんがな。貴様が私に何かを望むという行為が、恩返しになる。」
「・・・なれば。三成殿。其方は、その優しさを永久に失わないでくだされ。そして笑って生きていてくだされ。某は死ぬわけではござらんが、其方を前にしてこの『真田幸村』でいられる保証がありませぬ。ですが、其方には何時までも笑っていてほしいのでござる。一度某に下さったあの笑みを某は忘れませぬ。それは恐らく、いえ確かに。久遠の間、某に染みついておりましょうぞ。某はそれに縋りつくことしか出来ませぬが、其方の笑顔が心からのものだと分かるのが嬉しいのでござる。あの笑顔が皆の前で咲くことを某は望みましょうぞ。」
「・・・真田。私は貴様に意図して笑みを向けた覚えがない。」
「・・・そうでござるか。それでも、某は・・・」
「黙れ、聞け。つまり、この私が無意識の笑みを向ける唯一の相手が貴様だったということだ。」
「・・・それは、まことか。」
「ああ。私が嘘偽を話したことがあったか。」
「それは、なんと、贅沢なことか・・・。」
「私は、貴様にしか笑まない。だが、貴様が望むのなら。一度くらいは笑んでやろう。・・・だから、泣くな。」
「泣いてなどおらぬわ・・・。」
三成が細い指で幸村の涙を拭う。
「笑っておるわ!」
幸村がにぃと笑った。
「ああ、そうだな。」
三成もそれを見て笑む。
「三成殿。約束でござる。」
「ああ。」
がらり
ぴしゃり
「あ、石田の旦那。どうだった。」
「黙れ。話しかけるな愚図共が・・・。」
「なに・・・まぁ、いいか・・・。」
悪態をついて去る三成の口元は、僅かにだが、確かに笑んでいた。
「つまらぬ契りを立てたな・・・私も。」
「・・・ああ、徳川殿、いや、家康殿。」
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