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毎日からの逃走劇
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縁側に腰掛け、昨日降った雨で出来た水溜り越しに見える俺の空に、アイツは入ってきた。
「なにをしておるのだ。」
ひどくたどたどしい言葉。
だけど意志のある言葉。
それが最初で最後の出会いだった。
<***>
半ば自暴自棄になっていた俺は、名も知らないソイツにずっと話し続けた。
その子供は、淡々と話す俺の言葉を、一字一句聞き逃すまいというように熱心に話に耳を傾けていた。
全て話し終えるころには、不思議と心は澄んでいて、その時初めて、その目でソイツを見た。
赤みを帯びた綺麗な、硝子玉のような翳り(かげり)のない瞳。
思わず、目を見開いた。
「その、こじゅうろうどのにも、なにかつごうがあったのでござろう。」
「Ah?都合?何言ってんだ、てめえ。」
「そなた、たいせつなものをわすれておるな。」
「大切なもの?」
「しんじるきもちでござる。」
「・・・。」
そんなもの、とうの昔に・・・。
「ねえよ、んなもん。忘れた。失くした。この右目と一緒にな。」
「ならば、それがしのこともしんじられぬか?」
「ああ。」
「それは、ざんねんでござるな・・・。」
確かにその子供の目は悲しげに伏せられた。
だが、すぐに。
あの真っ直ぐな目で見つめられ、息が詰まった。
「それでも。それがしのことばは、しんじてくだされ。」
ふわりと風が吹いて、俺と、アイツの柔らかそうな髪と、水溜りの水面を撫でた。
揺れる水面に映った俺は、アイツの綺麗な瞳に映った俺は、きっと。
誰も信じないと幼心に誓ったソレが、揺らぐ俺だったのだろう。
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