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「パンの耳?……」
ベンチに置いていた画材を慌てて片付けていると、楓の側にあったものを輝が不思議そうに指を差した。
「わあっ! これはっ……その……僕のお昼ご飯です……」
最後の方は小声になりながら、ビニール袋に入ったパンの耳も素早くバッグの中に放り投げる。
「そうなんだ。これだけで足りる?」
「それ良く友達にも言われます。でも好きな絵を描いていたら、お腹減ってることも忘れちゃうんです」
「あ……その絵のことで俺、君を探していたんだ。廊下でぶつかった時、これを拾い忘れたみたいで……。でもどこの科の何年かも分からなかったからどうやって探そうかと思って、山下教授に見てもらったら君だって教えてくれたんだ」
「えっ! 山下教授に見せちゃったんですか?」
「何かまずかったかな?」
「や……あの……教授は有名な画家でもあるので、僕の単なる趣味で描いている絵を見られたかと思うと……」
恥ずかしそうな顔をして項垂れる楓に山下が褒めていたことを伝えると、今度は明るい表情に変わりこの数分の間にいくつも見せる顔色に輝はまた自然と笑みが溢れてしまった。
「それで君が絵画科二年って分かってクラスに行ったけどいなくて、君の友達の小林さんにどこにいるのか教えて貰えたんだ」
「ぶつかっただけじゃなくて、こんなに色々迷惑をかけてしまってすみません……」
「俺の方こそ、人には知られたくない特別な場所に来てしまってごめん」
「そんなことないです! 来てくれて凄くうれしいです!」
大きな目を輝かせ眩しい笑顔を見せてくる楓に輝は、今まで味わったことのない心の温かさと高鳴りを感じた。
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