アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
小さな願い
-
「俺もちゃんと届けることができて良かった。それと……これはもう一度君と会えたら話したかったことなんだけど……」
正直、今まで絵に関しては見ることも描くこともそこまで興味はなかった。でもはじめてこんなにも心に残り人に伝わるものがあるんだと、楓の絵を見て感じることができた。それをどうしても伝えたくて話すと楓は、じっと輝を見つめ静かに聞いてくれた。
「それでもし良ければこの一枚じゃなくて、もっと沢山見てみたいなって思って」
「僕の絵を?」
「うん……あ、ごめん。嫌だったら言ってくれてかまわないから」
「えっ? 全然、嫌じゃないです! 見たいって言ってくれる人がいるって凄く嬉しいです。僕は良いことも悪いことも含めて、色んな感想が聞けたらいいなっていつも思ってるんです。そうすればそれを力に変えて、どんどんスキルアップしていけるから」
*
見た目からは柔和な感じの人だと勝手に思っていたが、自分の意思や将来を見据えているような力強い眼差しに変わったことに少し驚いた。
「今、手持ちである絵はこれくらいだけど……」
バッグの中からポストカードサイズの分厚いファイルを差し出してくれて、中を開くとそこには景色が何枚も続いていた。
「これ……ここの庭?」
「そうです。毎日ここでお昼を食べながら描いてるんだ。あ……毎日って言っても、雨の日や寒い日とか凄く暑い日は避けちゃうこともあるけど」
「凄いよ……。同じ庭のはずなのに、色使いも綺麗だし全部違う場所みたいだ……」
「景色や色は一日だって同じ日はないんだよ。だから描いていても楽しいし飽きない。拾ってくれたカードはたまたま夕暮れに、ここに来た時に描いたものだったんだ」
「あの夕暮れの色と君の瞳の色が俺には重なって見えて…………凄く綺麗だと思った」
「僕の瞳?……」
「うん。凄く温かくて穏やかな気持ちになった。それに君の絵からも優しさが溢れていて、本当に描くのが好きって伝わってくる」
「えへへ……そんなに褒めて貰ったことないから照れるよ……。櫻木君は褒め上手だね」
感じたことをそのまま言っただけだとは言われたが、その真っ直ぐ輝く漆黒の瞳に見つめられてしまうとまた鼓動が速さを増した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 533