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輝が呼ばれて廊下へ行ったのを見た楓は小さく溜息をつき、他の部員が料理をしている姿を少し離れた席からぼんやりと眺めていた。
「はいはーい! 楓ちん、今日のおやつですよー!」
少しでも気を紛らわせようと気を使い雅姫が、お馴染みの棒付きキャンディーを楓の口の中にねじ込んだ。
「んんっ!」
「そうそう、そのまま出してー、入れてー、舌先でぺろぺろしてー」
「ヒメ君! 変なこと言わないでよ!」
「俺、別に変なこと何も言ってないけどー? 楓ちんは何を考えたのかなー?」
真っ赤な顔をして照れている楓は、やはり今日もピュアボーイだ。
ーー楓ちんはいつ気づくのかな。あとひと押しってとこか……。辛いかもしれないけど、絶対それを乗り越えたら幸せが待ってるって保証してやるよ。
楓の頭をぐりぐりと撫でると、突然の雅姫の行動に楓は首を傾げ不思議そうな顔を見せてくる。焦ることはない、自分の気持ちとゆっくり向き合えばいいと雅姫は心の中で二人を見守ることを選んだ。
しばらくして戻って来た輝はまた部員と料理をはじめたが、今日は怪我をしている手を心配されるほど調理にてこずっているようだ。楓はその手をちらりと見たが痛々しく包帯が巻かれていて、綺麗な指先までもが紫色になっていてつい目を背けてしまった。
ーー僕が輝を傷つけたんだ……。
ここに来てから胸の痛みは増すばかりで、日に日に間隔が短くなり強くなっていく。今日は痛みに加え、先ほど廊下にいた女の子を見た時、心の奥からどす黒いコールタールのようなものがどろりと流れ出てきた気がした。自分の知らない自分が生まれて、それが酷く嫌いな自分に見えて恐ろしさで体が冷たくなった。
「輝……手、大丈夫? 折れてない?」
心配で背後から恐る恐る輝に近づき、こっそりと聞くといつもの優しい笑顔と声で大丈夫だと頷いてくれた。
「凄い色してるけど平気。俺、骨は丈夫だから」
「良かった……でも右手だから料理できないね……」
「まあ、一週間くらいで腫れは引くって言われたからその間は無理しないでやるよ」
「ほんとごめんね……」
「ん……。楓のせいじゃないから」
悲しい顔をして項垂れる楓に輝は、左手で優しく頭を撫でた。その輝の体温が楓の全身を温めて、小さな欲が生まれる。
ーー今だけはこの温かさに甘えていたい。
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