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先日のサークル以降、怪我をした輝を休ませるため部員が気を使い数日間休みとなった。それでも輝は暇だからと言いひとり調理室で本を読んだり、手が動く範囲でできることをしている。楓は怪我の原因は自分のせいだと責任を感じて、できることはほとんどないはずなのに輝のそばにいた。
小さな鍋の中身は次回使うものだろうか。オレンジ色のソースがコトコトと音を立て、甘い香りが温かく二人を包んでいく。いつものように楓は調理台の空いているスペースに画材と小さなスケッチブックを広げて料理の絵を描き、輝は向かい側に腰を下ろし肩肘をつきながらそれを静かに眺めている。
「俺、楓の絵が好きだよ……」
そのなにげない言葉に胸が高鳴り、顔が熱くなるのが分かった。きっと静かな空間に、低く艶のある声が響いたせいだろう。いつもより楓の鼓動は速さを増して胸の中で大きく鳴り響き、それが輝に聞こえてしまうのではないかと慌てて咳払いをしてごまかした。
「そっ……そう言ってくれるの嬉しいよ……」
微笑み視線を合わせると輝も笑顔を見せてくれたが瞳は悲しい色をしていて、それなのに綺麗で目を逸らせずにいると怪我をしていない左手で頭を優しく撫でてくれた。
ーーああ……まただ……。
何度も心が苦しくて、何度も胸が張り裂けそうで、それなのに止まらないこの気持ち……。
ーーそうか……。
突如ストンと、胸の中に落ちた答えはあまりにもシンプルで頭の中が真っ白になったが、気づいた瞬間その気持ちは白から黒へと変わった。
輝には沢山の彼女がいる。そしてみんなに優しい。
全ての髪に優しく触れて、頭を撫でる。
僕だけを見て欲しい。
僕だけに触れて欲しい。
僕だけに笑って欲しい。
もうこの気持ちは止められない。
ーーねえ、輝……僕を好きになって…………。
「楓?……」
輝が驚いた顔をしてこちらを見ていたことに心の声が漏れてしまったのかと焦ったが、ふと自分の頬に触れるといつのまにか涙を流していたことに気づいた。輝が眉をひそめ口を開きかけたその時ドアがノックされ、外から女の子の声が聞こえた。また「いつものあれ」だと分かった輝はひとつ溜息をつき「行ってくる」と短い言葉を残しまた楓の頭を撫でて席を離れた。
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