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ぽつり、ぽつり
その音は彼の囁きのようで
ぽつり、ぽつり
僕を過去へと連れていく。
ぽつり、ぽつり
頬に伝うこの水滴を、
ザーーー…
僕は"雨"だと思いたい。
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雨音は聞こえないふり。
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"傘、使う?"
この言葉がきっとはじまり。
自分でもびっくりするくらい、
するりと声を掛けた。
けれど驚いたように振り返った彼は、
戸惑ったように首を振った。
雨音が僕らを邪魔して、
自然と近くなる距離。
初めて言葉を交わした彼を、
もっと知りたいとおもった。
"折りたたみも、あるから。"
その言葉でやっと傘を受け取った彼は、
"ありがとう。"
そう言って笑って。
彼と顔見知りではあったけれど、
人見知りだった僕はひたすら、
雨を背景にしても眩しい彼を、
細めた目で見ていた。
ほとんど接点のない僕らには、そっと沈黙が訪れて、
どうしたらいいのかわからず僕は折りたたみ傘を開く。
"それじゃ。"
早口で言った言葉は雨に掻き消されたかもしれない。
早足で歩き出した僕にはもう、関係のないことで。
"あ、"
彼の声も雨に吸い込まれて、
"…"
彼もまた目を細めて僕を見ていたことを、
僕が知ったのはそれから少しあとのことだった。
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